少年期に歌手として戦意高揚のための童謡を歌い、戦後は俳優・声優として活躍してきた矢田稔さん(93)=東京都多摩市=が5年ぶりに舞台に立つ。出演するのは、戦時期の映画界を描く演劇で、戦争体験や長い俳優キャリアから白羽の矢が立った。矢田さんは「平和な時代の若い俳優が、戦争を真剣に考えるきっかけとなってほしい」と話す。
◆戦争に翻弄される映画人を描く
若い俳優たちとともに稽古に励む矢田稔さん(前列中央)=東京都杉並区で
演目は、若き映画助監督を主人公に、戦争に翻弄(ほんろう)される映画人と周囲の人びとを描く群像劇「獅子」。出演者を2グループに分けたダブルキャストで、矢田さんは映画監督として大成した高齢の主人公を演じる。
共演する若い俳優たちは矢田さんの演技の一挙手一投足に真剣なまなざしを向け、戦時期という特異な時代を背景にした芝居に臨んでいる。
学徒兵出身の特攻隊員を演じる沢田美希さん(20)は、戦争関係の博物館へ足を運ぶなどして役作りに取り組んできた。「自分と同世代の青年が命を捨てなければいけない時代があったことを深く受け止めたい」と意気込む。
沢田さんは、矢田さんの演技を目の当たりにして「エネルギーに圧倒されます。同じ舞台に立てるのがうれしい」と目を輝かせる。作・演出の砂川仁成さん(49)は「演技の説得力がすごい。接した若い共演者の芝居が変わっていく様子が分かる」と感嘆する。
◆「芝居で自分もタイムスリップした気持ちに」
そんな周囲の視線に、矢田さんは「若い人が昔の暮らしなどいろいろ質問してくれて、自分も芝居を通じてタイムスリップした気持ちになる。彼らの役に立てるならうれしい」と話す。
舞台は23~27日、東京都渋谷区の「伝承ホール」(区文化総合センター大和田)で上演される。問い合わせは、企画・製作した「PROPAGANDA STAGE」のメール=propasisi2024@gmail.com=へ。(小松田健一)