◆IC介入を拒否した理由「間に人を入れたくなかった」と監督
ICとは、性的描写や身体の露出が伴う撮影の際、出演俳優と製作側との間に立つ専門職。俳優が安心して演じられる環境を整え、監督の演出を最大限実現できるよう調整する。2017年頃から世界的に広がった#MeToo運動を機に欧米で生まれたという。
「ICが映像業界のパワーバランスの全てを打ち崩せるわけではないが、これを機に第三者を入れることを徹底してほしい」。ICの西山ももこさん(44)はそう語る。
◆松竹幹部「撮影当時は日本での事例も少なく」の時代錯誤
映画はというと、まさに「性の不条理」がテーマ。性暴力シーンは、性被害を受けた側だけでなく、加害者側の役者も精神的負担が強くかかるとされる。
7月5日の舞台あいさつでは、事態を重く見た製作委員会の松竹幹部が登壇し「撮影当時は日本での事例も少なく…」と釈明。三木監督も「不用意な発言で多大なご迷惑ご心配をおかけした」と、あくまで自身の発言について謝罪した。
西山さんは「確かに22年の撮影当時、ICの起用は主流ではなかった」とした上で、「だとしても、役者本人の希望を断ったことと、記事が出る前のこの発言を誰も問題だと思わなかったことが問題。監督も製作側もアップデートできていなかった」と残念がる。
◆「演じる側が傷つかない仕組みがさらに必要だ」
西山さんも仕事が増えたのは23年ごろ。前年に映画界で性被害が相次いで発覚し、環境改善の声が高まった。
映像業界は昨今、配信ドラマも増え、長期間にわたり負担がかかりがち。「演じる側が傷つかない仕組みがさらに必要だ」と話す。
映画界の環境改善を訴える「action4cinema」副代表で、映画監督の舩橋淳氏は「監督側が権力勾配を利用しているという自覚に欠けている。弁護士なしで裁判に立たされるような不公平感だ」とみる。「俳優が大事にされていると感じられるよう、平たく意見の言いやすい環境を整えるのは監督とプロデューサーの責務だ」と訴える。
前出の西山さんも「同意を取ることは言葉以上に難しい究極的なこと。繊細であってほしい」と求める。
◆「女性の尊厳が害されることへの危機感が乏しかった」
追い打ちを掛けるように今月に入り映画パンフレットの発売が中止に。公式サイトからは「快楽に溺れ」などの文言が消えた。表現上の理由では、との指摘もあるが、松竹担当者は「サイトに『制作上の都合』と書いたことが全て」とした。
上智大の水島宏明教授(テレビ報道論)は「予告時から男性目線が強いと気がかりだった。男性の本能的な意味合いも映画にしたい思いが見て取れ、女性の尊厳が害されることへの危機感が乏しかった。性的描写にICを付けるのはもはや常識だ」と指摘した。