◆「政府としてコメントする立場にない」
「市の主催行事で、外交団の出席を含め政府としてコメントする立場にない」。首相は9日、長崎市での記者会見で、政府が市と米側などとの間に立って調整を図るべきだったとの質問に対し、そう述べるにとどめた。
林芳正官房長官も9日の記者会見で、8日に続いて「式典は長崎市主催の行事であり、出席者について政府としてコメントする立場にない」と強調。上川陽子外相も8日の会見で同様の回答を繰り返し、岸田政権として、市とG7各国との対立から距離を置く姿勢を鮮明にしている。
◆批判の矢面に立ちたくない岸田政権
広島選出の首相は核軍縮をライフワークとし、唯一の被爆国として「被爆の実相」を知ってもらうための被爆地訪問を各国指導者に促してきた。にもかかわらず、今回の問題について市主催と冷淡な対応に終始するのは、政府が批判の矢面に立たないように神経をとがらせているためだ。
式典を欠席した米国のエマニュエル駐日大使は9日、イスラエルのコーヘン、英国のロングボトム両駐日大使らと共に、東京・芝公園の増上寺で開かれた「長崎原爆殉難者追悼会」に参列し、被爆者を慰霊した。市がパレスチナ自治区ガザ攻撃を続けるイスラエルを平和祈念式典に招かなかったことに反発した。
イスラエルを招待しなかったことについて、市は「政治的な理由ではない」として、不測の事態を避けて式典を安全に行うことを理由に挙げるが、エマニュエル氏らは「イスラエルとロシアを同列に置く」と対応を批判する。市はウクライナ侵攻を理由にロシアも招待していないためだ。米国は「自衛権の行使」としてガザ攻撃を続けるイスラエルを擁護してきた。