立憲民主党の代表選が、9月7日告示、23日投開票と決まった。どういう狙いで日程が決まったのかはわからないが、自民党総裁選が20日に実施されるため埋没する可能性もある。裏金問題で自民党が支持を失っている今こそ政権奪取に向けた千載一遇のチャンスのはずだが、党内の“実力者”たちによる支持固めが表に裏にと活発化しているのが現状だ。小沢一郎氏の動きにも注目が集まる。こうした動きについて政治ジャーナリストの安積明子氏に聞いた。
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自民党総裁選と立憲民主党代表選。いずれも岸田文雄首相と泉健太代表の苦戦が予想されるが、とはいえ他に有力な候補は不在というのが両党の共通点だ。
昨年来、「政治とカネ」問題に揺れる自民党だが、東京地検特捜部は7月30日、公設秘書給与の詐欺容疑で広瀬めぐみ参院議員の事務所や自宅を家宅捜索した。広瀬氏は今年2月、週刊新潮にカナダ人のサックス演奏者との不倫を報じられた“前科”がある。自民党はすぐさま広瀬氏を離党させたが、問題はくすぶる。広瀬氏は2022年の参院選で、「小沢王国」と言われた岩手県選挙区で30年ぶりに自民党に議席をもたらしたが、それが脆くも崩れてしまったことになる。
■小沢氏の目的は「泉降ろし」?
一方で、最近の小沢一郎衆院議員の動きは活発だ。目的は次期代表選で、なんとしても泉代表を降ろすこと。21年の代表選で泉代表を推して当選に導いた小沢氏だが、泉体制で希望した選対幹部のポストを得ることができなかったことがくすぶっているらしい。
22年の参院選で泉代表は「(現有の)23議席以上と比例票1300万票」を目標に掲げたが、立憲民主党は6議席減の17議席しか取れず、比例票についても677万1945票を獲得するにとどまった。この時、小沢氏の側近である森裕子氏と木戸口英司氏が、それぞれ新潟県選挙区と岩手県選挙区で落選した。木戸口氏と戦い、勝利したのが前述の広瀬氏で、自民党公認候補だった。
このとき、敗戦を受けて泉代表は、「責任は重く受け止める」としながらも辞任はしなかった。衆院選は政権をかける選挙だが、参院選はそうではないという理屈だろう。しかしそれでは民主党政権時の主要メンバーたちは収まらない。とりわけ自民党が「政治とカネ」問題で失墜している今は、政権奪取のチャンスでもある。にもかかわらず、「頼りない泉代表」に、将来の首相になるかもしれないポジションを渡すわけにはいかない――。
菅直人第2次改造内閣の官房長官で、野田佳彦内閣では経済産業相を務めた枝野幸男前代表は代表選に意欲を見せ、党内の最大グループ「サンクチュアリ」に影響力を持つ赤松広隆前衆院副議長や小沢氏らと面会し、支持を求めている。
■「馬場さん、玉木さんとやったことがパーになる」
一方、泉代表は、連合の芳野友子会長や国民民主党の玉木雄一郎代表、そして日本維新の会の馬場伸幸代表、社民党の福島瑞穂党首らと次々に会談をこなし、国民民主党とは政策協議をすることで合意した。
ここまでは「野党共闘」の模索だといえるだろう。だが泉代表は、さらに日本共産党(以下共産党)の田村智子委員長とも会談する予定だ。これを国民民主党の榛葉賀津也幹事長に「馬場さん、玉木さんと(会談を)やったことがパーになる」と牽制されると、泉代表は「玉木さんも志位(和夫、前共産党委員長)さんとピアノを弾いていた」と反論した。
これこそ泉代表の「焦り」の象徴ではないか――。
21年の衆院選で13議席を失った責任をとって枝野前代表が辞任した後、代表選で泉代表が選任されたのは、より現実性を求めて保守層にウイングを広げることを期待されてのはずだった。立憲民主党が自民党に代わって政権を取ろうというのなら、安全保障や原発政策で理想路線を堅持する共産党と組むのは現実的とはいえない。
たしかに民主党政権を生み出した09年の衆院選では、共産党の「候補擁立の自粛」は助けになった。共産党は03年の衆院選では小選挙区と比例区を合わせ316人を、05年の衆院選でも292人を擁立した。しかし09年の衆院選では171人と大きく数を減らし、結果的に民主党の大勝を導いている。
ただ、当時の民主党は「大きなかたまり」だったが、現在の立憲民主党はそうではなく、より大きくなろうとすれば、国民民主党や日本維新の会との連携が必要になる。彼らは共産党に対して距離を置く姿勢を崩していない。泉代表がかねて共産党とパイプを作ってきたのなら別の話になるかもしれないが、そういう様子も見られない。
21年の人事の件に加え、こうした泉代表の行動も小沢氏の癇に障っているのだろう。小沢氏にとって枝野前代表は「09年の政権交代を実現させた同志」といえるが、03年に初当選し、鳩山(由紀夫)政権で内閣府大臣政務官を務めたにすぎない泉代表は「同格」ではない。また50歳になったばかりの泉代表が再選されれば、幹部の若年化が固定化されかねない。これは民主党政権で閣僚を務めた人たちにとって、あまりうれしくない話だろう。
小沢氏は野田元首相にも接近し、7月19日と31日に会談した。25日には赤松氏と面会し、30日には枝野前代表とも懇談した。あたかも「対泉包囲網」を小沢氏が作ろうとしているかのようにさえ見える。
もっとも小沢氏が枝野前代表に会ったからといって、小沢氏が枝野前代表を支持するとは限らない。小沢氏が率いる一清会からは、「21年の衆院選で引責辞任した枝野前代表が、次期衆院選で党の顔になろうとするのはいかがなものか」と批判する声も聞かれる。