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前編記事『【総裁選インタビュー】石破茂が語った「総理大臣という天命」…国民人気トップを独走する男がついに本心を明かした!』では石破茂氏が政治への想いとこれからの展望を、新著『保守政治家 わが政策、わが天命』をもとに熱く語ってきた。後編記事ではさらに石破氏が日本の防衛政策にも踏み込んでいく。
この夏は台湾で頼新総統らと意見交換
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ーー外遊その他は?
この会は、中谷元さんや浜田靖一さん(いずれも防衛相経験者)など、思想的な偏りがなく、かつ、防衛政策について装備も法律も運用も知っている議員の集まりです。昔「21世紀の安全保障を考える若手議員の会」としていたものを、今の若い世代の議員たちにも参加してもらって続けていて、そのメンバーで一昨年も訪台、蔡英文総統や頼清徳副総統らとそれぞれ1時間、濃密かつ実質的な会談をしました。今年はまた向こうから話があって、頼新総統らと意見交換する予定です。
ーー何を話しますか?
石破現下の台湾海峡を中心とする東アジアの安全保障問題について、腹を割った意見交換をしてきたいと思っています。
「今日のウクライナは明日の東アジアだ」と常套句のように言う人たちがおられるが、そんな単純かつ乱暴な議論では実質的な安全保障体制の構築はできないと思います。
中国抑止に何が必要か
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石破バイデン米大統領は、「ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)に加盟していないから防衛義務を負わない」と、言わずもがななことを言いました。国連憲章51条により、被攻撃国から救援要請があった場合に国連安保理の決定が下りるまでの間、集団的自衛権を行使することができるというのは、すべての国の権利です。それはウクライナがNATO加盟国ではないからと否定されるものではありません。
いくらバイデン氏が国内世論を気にしたとはいえ、先に「ウクライナには行かない」と言う必要はありませんでした。「あらゆる選択肢を放棄しない」と言っておけばよかったのです。
ーー集団的自衛権の行使まで否定してしまった。
石破それがロシアのウクライナ侵攻の1つの理由になったと私は思っています。ですから、「今日のウクライナ論」を言うなら、米国に対して、このバイデン大統領の態度を質すべきです。ウクライナ問題を台湾問題に置き換えて考えた時、台湾には集団安全保障どころか二国間同盟もない。前提条件はウクライナより悪いとも言えます。この状況で中国を抑止するためには戦略の不断の見直しが不可欠です。
ーー米国の「台湾問題」対応にはウクライナ対応への失敗という伏線があった?
石破もちろん米国は失敗とは認めないでしょう。しかし、ロシアの抑止に失敗したことは事実で、頼総統とはその話もできたらと思っています。独立を望まない台湾に対して、中国が実力を行使する理由はどこにもないはずです。それを踏まえてなお、我々が準備しなければならない抑止力のあり方について議論したい。
自衛隊と「軍隊の本質」
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ーー防衛相経験者としての石破さんにお聞きしたい。特定秘密のずさんな扱いや不正手当など最近、海上自衛隊の不祥事が目に余ります。
石破デジャヴの感を禁じ得ません。福田(康夫)内閣で防衛大臣を拝命していた時、イージス艦衝突事案、航泊日誌破棄事案など、多くの不祥事や事故が起こり、総理の命により防衛省改革会議が設置され、あらゆる論点を議論して改善の方向を提示したのですが、時間の経過とともに風化してしまったようで残念です。
潜水手当不正受給など、あってよいはずがありません。いつの間にここまでモラルが低下してしまったのか。自衛隊について、「国における最強の実力組織であるがゆえに、最高の規律が求められ、それに相応しい最高の栄誉が与えられる」という軍隊の本質から目を逸らしてきたことが、今日の事態を招いた根本的要因だと私は確信しています。
石破が語る「真の保守政治家」
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ーー最後に、新著のタイトルでもある「保守政治家」とは何ですか?
石破残っているものにはそれなりの合理的理由があります。その意味で日本の歴史、伝統、文化を大切にする思いが保守の基本にあっていい、と思います。
しかしだからといって、排他的になるべきではありません。形のない思いを守っていくためにこそ、異なる主張を受け止めていく寛容さが必要なのです。人間も人間社会も完璧ではない。必ず間違いを犯す可能性がある。だからこそ、自分たちだけが正しいと思わず、常に異論、反論に耳を傾けるべきだ、ということになります。
つまり、保守とは、相手の言う事を聞く柔軟性と寛容性、受け入れる度量、あるいはお互いに納得いくまで説明する努力をするという佇まいのことです。それはある意味、リベラルに共通するものがあります。
石破氏と言えば研鑽の人である。総理になれるかどうかは天命として、なった場合に備えた研鑽は誰よりも積んでいるように見える。今回も然り。ギリギリまで努力を続ける。その意味での「戦闘宣言」と受けとめた。
取材・文/倉重篤郎
「週刊現代」2024年8月10・17日合併号より
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