政治資金の第三者機関 たなざらしは許されない(2024年8月5日『毎日新聞』-「社説」)

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自民党派閥の政治資金を巡る事件で、記者会見冒頭に頭を下げる自民党萩生田光一政調会長=東京都千代田区で2024年1月22日午後4時7分、宮武祐希撮影
 「政治とカネ」の問題に切り込むには欠かせない組織だ。設置に向けた道筋を早急につけなければならない。
 通常国会で成立した改正政治資金規正法で設置がうたわれた第三者機関である。カネの流れを監査するのが役割だが、いかなる方法で適正化を図るのか、制度設計は決まっていない。設置時期も明記されなかった。

自民党清和政策研究会(安倍派)が訂正した2020年の政治資金収支報告書。支出時期を「不明」とする所属議員側への寄付が多数追加された=東京都千代田区で2024年1月31日、玉城達郎撮影
 最大の焦点は、どのような権限を持たせるかである。改正法に明記されているのは、10年後に使途が公開される政策活動費の中身を監査することだ。だが、それだけでは政治資金の全体像をチェックすることはできない。
 各界有識者による「令和国民会議(令和臨調)」の提言が参考になる。規正法違反があった場合、議員が得た寄付やパーティー券収入を、購入者に返還するよう命じることができる。政党助成金を減額させる権限も付与する。
 ポイントは、交通違反反則金にならい行政上の制裁を科せるようにすることだ。現状では、立件されなければ実質的に「おとがめなし」となる。
 自民党派閥の裏金事件でも、政治資金収支報告書への不記載額が3000万円未満の議員は罪に問われなかった。段階的なペナルティーを導入することで、抑止力になり得る。
 こうした機能を果たすのに適した組織のあり方を検討しなければならない。立法府と行政府のどちらに置くか、二つの選択肢がある。
 立法府に置けば政権の意向に左右されず、高い独立性が担保される。一方、処分の権限を持つ行政府に置くことにより、実効性が高まるとの意見もある。
 論点は多岐にわたる。検討を急がなければ、法が施行される2026年1月に間に合わない。
 公明党は既に議論を始めており、立憲民主、国民民主など野党も前向きだが、自民の動きは鈍い。「先送りできない課題に結果を出す」と繰り返すのであれば、岸田文雄首相は直ちに着手すべきだ。
 民主政治を健全化するには、カネの流れを国民監視の下に置き、不正行為を厳正に処分する必要がある。第三者機関はそのカギを握る。設置に向けた議論を、たなざらしにすることは許されない。