中山知子の取材備忘録
◆中山知子(なかやま・ともこ) 1992年に日本新党が結成され、自民党政権→非自民の細川連立政権へ最初の政権交代が起きたころから、永田町を中心に取材を始める。1人で各党や政治家を回り「ひとり政治部」とも。小泉純一郎首相の北朝鮮訪問に2度同行取材。文化社会部記者&デスク、日刊スポーツNEWSデジタル編集部デスクを経て、社会/地域情報部記者。福岡県出身。青学大卒。
また同じ「茶番」が繰り替えされることになった。自民党の広瀬めぐみ参院議員(58=参院岩手選挙区)が7月30日、公設秘書に勤務実態があるように装い、国から支給された秘書給与をだまし取った疑いで、東京地検特捜部の強制捜査を受け、広瀬氏は即日、自民党を離党した。この問題は「週刊新潮」が今年3月、勤務実態のない「幽霊秘書」が広瀬氏の事務所にいたとする疑惑を報じたが、広瀬氏は自身のホームページで、疑惑が指摘された公設第二秘書には勤務実態があったと主張。報道は「事実無根」と反論し、法的措置の可能性も示唆していた。
あれから4カ月あまりがたった後の、強制捜査。永田町では「特捜部は、証拠を固めて満を持して家宅捜索をしたのだろう」(関係者)の声もある。広瀬氏が弁護士出身だということもあり、話を聞いた複数の自民党関係者からも、かばう声はほとんどなかった。
2022年参院選で「小沢王国」の岩手で30年ぶりに、自民党に議席をもたらした人物だが、当選後は「エッフェル塔前観光写真」が問題になった自民党女性局のフランス研修で、料理の写真をSNSに投稿するなどして、炎上。秘書給与に関する疑惑報道の少し前には、同じ週刊誌に「赤ベンツ不倫」を報じられ、事実を認めて謝罪するなど、議員活動以外で話題になることが多かった。
今回のような秘書給与をめぐる「政治とカネ」の問題は、これまでにもたびたび起き、逮捕者も出してきた。広瀬氏は自民党で麻生派に所属していたが、ある意味「古典的手法」(関係者)といわれる疑惑が再び表面化し、岸田文雄首相に影響力を持つ麻生太郎副総裁の派閥の議員で起きたことは、少なくない波紋を広げている。
そんな広瀬氏の「スピード離党」には、「またか…」という印象しかなかった。冒頭に「茶番」と書いたのは、このところ「政治とカネ」の問題が指摘された自民党所属議員が早々と党を離れ、自民党との関係性を少しでも薄めようとする涙ぐましさに対するもの。この対応は、疑惑を持たれた議員に対する「自民党の新たなお家芸」(野党関係者)になりつつある。本人の意向というより、党が離党届を素早く受理していることを考えると自民党の意向であるのは明らかだ。
思えばこの1年で、政治とカネの問題で自民党を離れた議員は、広瀬氏で実に10人にのぼる。1年前の今ごろ、洋上風力発電事業を手がける企業側から数千万円を受領した疑いで秋本真利衆院議員が離党(その後詐欺罪で逮捕、起訴)。昨年末には、東京・江東区長選をめぐる公職選挙法違反事件で、法務副大臣を務めていた柿沢未途氏が離党。柿沢氏はその後逮捕、起訴され議員辞職し、今年3月、有罪判決が確定した。
今年に入ると、安倍派のパーティー裏金事件をめぐり、池田佳隆衆院議員が政治資金規正法違反事件で逮捕され、離党どころか除名に。安倍派をめぐっては、在宅起訴された大野泰正参院議員、衆院議員を辞職した谷川弥一氏、安倍派幹部だった世耕弘成参院議員、塩谷立院議員がいずれも離党。4月には、安倍派幹部による「口止め」を暴露した宮沢博行衆院議員が「パパ活」を週刊誌に報じられ、離党後に議員辞職した。
広瀬氏の疑惑が浮上する少し前には、地元有権者に秘書を通じて自らの名前で香典を渡した疑惑で、堀井学衆院議員が東京地検特捜部の強制捜査を受け、離党したばかり。堀井氏は、次期衆院選には出馬しない意向を表明している。
この中には、「自民党」の看板で選挙を勝ち抜いた人も少なくない。その背負ってきた看板を外す際に、説明をした人はごく一部だ。広瀬氏も説明をしないまま離党し、今も沈黙したままだ。
かつて自民党衆院議員だった鈴木宗男参院議員は、2002年に離党する際、当時かけられた疑惑を踏まえて党本部で記者会見を開き「このままでは党に大変な迷惑を掛けると思い、決断した」と、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら語った。問われた問題は別にして、議員も党も、説明する姿勢はみせようとした。一方で、正面からは何も語らず、疑惑が浮上したら「こっそり」としかいいようがない感じで党を離れていくのが、最近の自民党議員で繰り返される、離党のスタイルだ。
離党した後に復党した自民党議員もいるが、政権政党である「自民党」という看板を、いとも簡単に議員がおろしていく現実。トカゲのしっぽ切りという側面はあるにしても、「自民党」ってそんなに軽いものだったのかなあと、なんだかもの悲しい気分になる。
【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)