日銀が3月以来の利上げに踏み切った。超円安も一因となっている物価高に反発する世論を意識した政府・与党が、日銀に政策変更を迫った形。だが、実質賃金の減少が続く中での利上げには慎重論もあり、政策委員9人のうち審議委員2人が反対した。日銀が想定する継続的な賃上げが実現しなければ、経営体力の弱い中小企業や家計への打撃となりかねない。 (白山泉)
◆政府・与党の働きかけが影響か 植田総裁は「コメントしない」
長引く物価高に賃金の上昇が追いつかず、実質賃金は5月まで26カ月連続減少している。利上げに万全な状況とはいえない状況だった。
そんな中、7月に入り、日銀の利上げを促す発言が政府・与党から相次いだ。岸田文雄首相が「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と発言すると、自民党の茂木敏充幹事長も「段階的な利上げの検討を含めて、金融政策を正常化する方針を明確に打ち出す必要がある」と続いた。超円安が招く物価上昇への不満を意識したとみられる。
植田和男総裁は会合後の会見で「個別の発言にはコメントしない」として、政府からの働きかけが、利上げの決定に影響したかどうかについては答えなかった。明治安田総合研究所の小玉祐一氏は「政治の方は中央銀行に緩和を求めるのが常。利上げの意見が出るのは異例だ」と指摘。その上で「中央銀行は独立しているとされるが、政治の意向を無視できない」とみる。
今回の政策金利の引き上げを受けて、メガバンク3行は預金金利を0.02%から0.1%に引き上げると即座に公表した。そのうち、三菱UFJ銀行は優良企業への貸出金利を9月から17年ぶりに引き上げるとしており、変動型の住宅ローン金利も上がりかねない。
日本銀行本店
ローン返済の負担増について、植田氏は「賃金が上がった後に金利が上がるので負担は少なくなると認識している」と説明。ただ、継続的な賃金上昇を前提としており、想定通りに負担増を避けられるかどうかは分からない。
◆外為は円高方向に、輸出産業への打撃を不安視する声も
大企業が大幅な賃上げを行う中、人材確保のために無理な賃上げを迫られる企業も多く、さらなる利上げで経営が苦しくなる懸念もある。植田氏は「こうした企業の従業員がより生産性の高い企業に移れる仕組みについてもモニターしたい」と指摘。企業の淘汰(とうた)を否定しなかった。