兵庫県知事「側近」が異動願、降格へ 精神的な不調「自信がなくなった」 告発文書問題(2024年7月31日『神戸新聞N』)

兵庫県知事「側近」が異動願、降格へ 精神的な不調「自信がなくなった」 告発文書問題(2024年7月31日『神戸新聞N』)
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 兵庫県の斎藤元彦知事らへの告発文書を巡る問題で、一連の対応による体調不良を理由に、県の小橋浩一理事が31日にも準特別職から部長職に降格し、総務部付となることが30日、県関係者への取材で分かった。小橋氏は斎藤知事の肝いり施策である「若者・Z世代支援」事業などを担当。今月22日から休んでおり、24日付で異動願を提出していた。
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【図解】元県民局長の文書に書かれていた内容
 文書問題を巡っては、筆頭副知事の片山安孝副知事が「県政の混乱を起こした責任を取る」として、今月末での辞職を表明。副知事は8月1日から服部洋平氏だけの1人体制となる。さらに県のナンバー4に当たる理事の小橋氏も不在となる見通しで、斎藤知事を支える県の中枢が空洞化し、意思決定や事業のさらなる停滞が避けられそうにない。
 県の関係者によると、小橋氏は精神的な不調を訴えており、異動願では「業務執行上の自信がなくなった」として部長級への降格を希望したという。
 小橋氏は、新県政推進室長兼企画県民部長や同総務部長などの要職を歴任し、今年4月に理事に就いた。理事職は部長職より上位の準特別職で、斎藤知事は6年ぶりに理事を復活させて人事異動の目玉とし、小橋氏は県立大無償化事業などを進める「若者・Z世代応援推進本部」のとりまとめ役などを務めていた。
 元西播磨県民局長が3月に作成した告発文書では小橋氏の名前も挙がり、「3年前の知事選で事前運動に関わった」などとする疑惑が記されていたが、県は人事課の内部調査で「事実はなかった」と否定していた。(前川茂之)

同級生が証言する「パワハラ兵庫県知事」の意外な素顔 いかにして「特異な人格」が形成されたのか(2024年7月31日『デイリー新潮』)
 
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齋藤元彦知事
 一連の問題は燎原の火のごとく燃え広がり、今や齋藤元彦兵庫県知事(46)の身をも焦がそうとしているのだが、かつて彼と机を並べた同級生からは意外な声が届く。告発者を自死に追い込んでなお、地位に恋々とする“おねだりパワハラ知事”はいかに作られたのか。
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“お土産”を「俺がもらっていく」と堂々お持ち帰り 高級ガニを手に満面の笑みを見せる“パワハラ疑惑”の斎藤知事
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 真夏日となった7月19日、兵庫県神戸市内の兵庫県庁前には100人を超える県民が集まっていた。
「齋藤辞めろっ、すぐ辞めろっ」
 建物の主に対して、そう一斉に声を張り上げたのである。その中でも目立ったのが、胸に黒い喪章を付けた者、あるいは手に白い菊の花を捧げ持つ者だった。彼らは7月7日、兵庫県姫路市内で亡くなった渡瀬康英元西播磨県民局長(60)の死に哀悼の意を表していたのである。
 発端は渡瀬元局長が今年3月、県議やマスコミ各社に対して齋藤知事の「パワハラ」や「おねだり体質」を匿名の文書で告発したことだった。その元局長が自死を選んだことで、事態は新たな展開を迎えたといえる。
「抗議活動があった19日の午後、兵庫県議会では齋藤知事によるパワハラや贈答品受け取り疑惑を巡り、3回目の百条委員会が開かれました」
 とは、兵庫県政の担当記者だ。
「本来その日は、渡瀬元局長への証人尋問が行われる予定でした。当日は委員から“(県側が)公益通報者保護法違反の調査で手にした、渡瀬さんが嫌っていたプライバシーに関する情報を流布し、脅しをかけて、渡瀬さんはああいう結果になった”という趣旨の発言も飛び出しました」(同)
「コミュ障だからすぐに怒りだす」
 県側が犯人探しの末に、告発者の渡瀬氏に不利な個人情報を手に入れ、氏を揺さぶっていたというのだ。事実ならば前代未聞である。さらに、
「委員会では彼が遺族に託した音声データも公開されました。それは齋藤知事が県内の会合に参加した際、“まだ私、飲んでいないのでぜひまた”などと、県の特産ワインを自身に献上するように関係者に要求するものでした」
 知事は音声公開を受け、自分自身のやりとりだと認め、自宅でワインを飲んだことも明かした上で、
「産業振興の一環で飲ませていただいた」
 と開き直ってみせたが、
「齋藤知事がそのワインについてアピールした事実は、SNSなどでも特段ありません」(前出・記者)
 語るに落ちるとはこのことで、確実に包囲網は狭まっている。さる兵庫県議いわく、
「齋藤知事は“コミュ障”なんですよ。片山安孝副知事が7月12日に辞表を提出した時も“知事はコミュニケーション能力が不足していた”と苦言を呈しています。雑談が苦手で、国会議員や県議会議員、県職員らとまったく意思疎通できていません」
 加えて、
「コミュニケーションが取れないからか、知事はすぐに怒りだす。それだけならまだしも、“俺は怒ったことをすぐに忘れるんや、ハハハ”なんて自慢する。周囲はドン引きですよ」
特異な人格
厚顔無恥」「夜郎自大」「傲岸不遜」など、いくつかの四字熟語が当てはまりそうなのだが、その特異な人格はいかに形成されたのか。
 神戸市須磨区の生まれ。実家はケミカルシューズ製造業だった。地元・神戸市立若宮小学校を卒業し、愛媛県松山市の私立愛光学園中学に入学したのだが、自身のHPで〈実は、私立中学入試で第一志望であった六甲中学校(神戸市灘区)を受験したのですが……〉と明かしている。
中高6年間の寮生活
 親元を離れて、中高6年間は愛光学園の寮で過ごしたという。同級生の一人が当時を振り返る。
「さいちゃん(齋藤氏)とは寮で一緒にご飯を食べたし、お風呂にも入った仲ですけど、いい奴としか言いようがないですよ。頭も良かったし、スポーツも全般的にできました」
 別の同級生も、
「自分は寮生活でも部活のソフトボール部でも一緒に過ごした間柄ですが、彼のパワハラ的な言動なんて見たことも聞いたこともありません。体育祭なんかでも、中心になって活躍していたイメージ。そういう時にクラスをまとめる役割を果たしていましたから、やはりリーダー的な資質があったのでしょう」
 などと褒めそやす。続けて明かすには、
「彼も入っている、愛光学園同級生のグループLINEがあります。今回のことで、そこに応援のメッセージを送ったんですよ。そしたら、彼からみんなに対して“感謝しています”という趣旨の返事が来て。大変な状況なのに律儀な奴だなって思いました」
 意外にも、中高の同級生らから聞こえるのは、好意的な証言ばかりなのだ。
「プライドが高いタイプ」
 東大経済学部卒業後、総務省に入省。一貫して旧自治省畑を歩み、各県府庁の重要ポストに派遣された。
 その古巣の総務省関係者に話を聞くと、先の同級生らと異なった見方を示す。
「プライドが高いタイプだと聞いたことはあります。経歴を見ると、30代中盤にして秘書課秘書専門官になっていますよね。これは結構、ポイントが高い。宮城県の財政課長なども歴任していますし、省内で出世街道を歩んでいたのは間違いない」
 さらに続けて、
「旧自治省系は警察の次に上意下達の縦社会。組織自体がパワハラの塊です。加えて、総務省にカネを握られているものだから、各県庁の職員は中央から派遣されてくる総務官僚に文句を言えない雰囲気がある。若くして地方で重要なポストを務めることで、勘違いしてしまう人がいるんです」
 総務省の独特な土壌が齋藤氏を形作ったと示唆するのだ。2021年、大阪府の財政課長時代に自民党日本維新の会に担がれて県知事選への出馬を決めた時には、すでに今の人格に仕上がっていたのだろう。
「県政を立て直すのは事実上不可能」
 一連の疑惑に関して、齋藤氏は代理人を通じておおむね否定。その上で、
「県政の立て直し、信頼回復に向けて、日々の業務を一つ一つしっかりと遂行していくことが私の責任だと考えています」
 と、知事の椅子にしがみつく姿勢を隠さない。
 だがしかし、元鳥取県知事で元総務大臣片山善博大正大学特任教授はこう喝破する。
「県民や県職員の多くは、齋藤知事に対する信頼をすでになくしてしまっているのではないか。齋藤知事は続投を表明していますが、県政を立て直すのは事実上不可能だと思います」
 元局長の妻は百条委員会宛てに、
〈主人がこの間、県職員の皆さんのためを思ってとった行動は、決して無駄にしてはいけないと思っています〉
 とのメッセージを託した。遺族の切なる願いはかなうだろうか。
週刊新潮」2024年8月1日号 掲載