SNS偽情報の法規制 権利損なわない仕組みに(2024年7月28日『毎日新聞』-「社説」)

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雪が降る中、安否不明者を捜索する警察官や災害救助犬。ネットの虚偽情報で救助に支障が生じる懸念もある=石川県珠洲市正院町で2024年1月7日午後0時3分、山崎一輝撮影
 
 ネットを安心して使える仕組みが必要だ。表現の自由を尊重しつつ、有害な情報の拡散に歯止めをかけなければならない。
 総務省有識者会議が、ネット交流サービス(SNS)などの有害情報への対策案をまとめた。他人の権利を侵害する違法な投稿が広がらないよう、政府の関与を強めることを求めている。
 政府はSNS事業者に対し、偽情報などへの対応を適切に行うよう促してきた。人を中傷するような投稿に関しては、迅速な対応を求める法改正を実施している。だが、基本的に事業者の自主性に委ねる現在の制度には限界があると判断された。
 対策案では、違法な情報の削除などを行政機関が事業者に求める制度の導入を提案した。政府は法規制を視野に議論を進める。罰金などの処分も検討対象となる。
 実現すれば、強力な規制がある欧州連合EU)に近づく。EUは、有害な投稿を重ねた利用者のサービス停止などを法律で定めている。
 虚偽や誤った情報の弊害は深刻化する一方だ。1月に発生した能登半島地震では、投稿サイトのX(ツイッター)で偽りの救助要請が拡散した。被災現場への救援に支障が生じかねない事態である。
 背景にあるのは、刺激的な投稿で閲覧数を稼ぎ、広告収入などを得る「アテンションエコノミー」の広がりだ。事実に反した情報が横行すれば選挙などに悪影響を及ぼす。他人になりすます虚偽広告の詐欺被害も急拡大している。
 ただ、政府が過度に介入して投稿の削除やアカウント停止を強制すれば、自由に表現する権利を損なう。法制化するとしても、条件や手続きを厳格に定め、抑制的に行使することが前提となる。
 研究者や事業者などで構成する協議会の設置も盛り込まれた。偽情報の影響を分析し、対策の指針策定などを担うという。
 国民目線で事業者を監視しつつ、政府の過剰な介入を防ぐ体制を構築できるかが問われる。事実を検証するファクトチェック組織や報道機関との連携も重要だ。
 利用者の権利を守るために、産官学のあらゆる関係者が、デジタル空間の健全性を高める役割を果たす時だ。