紅麹報告書に関する社説・コラム(2024年7月25・30日・8月5日)

 
小林製薬 被害広げた内向き姿勢(2024年8月5日『北海道新聞』-「社説」)

 小林製薬の機能性表示食品による健康被害問題を受け、外部識者による「事実検証委員会」が調査報告書をまとめた。
 製造現場で被害との関連が疑われる青カビを放置するなど、品質管理のずさんさを指摘した。被害把握から公表まで2カ月を要したことについては「消費者の安全を最優先に考えていなかった」との見方を示した。
 公表が遅れ被害は拡大し、摂取と死亡の因果関係の調査が必要な人は札幌の2人を含め100人に達した。健康食品を扱う会社にあるまじき行為だ。今も多くの人が被害に苦しむ。会社は問題の背景を検証し、説明責任を尽くさねばならない。
 報告書によると会社は1月中旬に被害情報を把握し、重い腎障害を発症したという情報が相次ぐ異例の状況を迎えた。疑いが生じた時点で、会社が公表や製品回収を急いでいれば被害の拡大は止められたはずだ。
 だが国の指針を独自に解釈し、行政報告の時期を製品と被害の因果関係が「明確な場合に限る」と判断した。報告書は「事業の維持を一定程度意識した上で問題に対応していたことがうかがわれる」と言及した。
 経営的損失の回避を優先し、消費者の安全確保を二の次にしたのであれば言語道断である。
 報告書は製造工場についても「人手不足の状況下で、製品の品質管理は一部、現場任せとなっていた」などと批判した。
 会社は社名に「製薬」がつくが、売上高の中心は消臭剤やオーラルケア商品、衛生雑貨品などが占める。医薬品や食品を製造販売する上で安全を最優先する基本を忘れてはいなかったか、見つめ直す必要があろう。
 報告書を受け会社は「信頼回復と再建に向け全社一丸となって努める」と表明した。だが人事などを見ると疑問が残る。
 小林一雅会長と小林章浩社長の辞任は決まったが、一雅氏は特別顧問に就任した。後任の社長になる山根聡専務も被害を2月に認識しながら対応をおろそかにした幹部の1人だ。これでは内向き姿勢が拭えない。組織は一から出直さねばならない。
 今回の事案は機能性表示食品制度の問題点も浮き彫りにした。経済成長戦略で導入され、事業者が機能性の根拠を国に届け出れば製品化が認められたが、制度が安全を軽視しているという指摘は当初からあった。
 政府は対策をまとめ9月、事業者に健康被害情報の提供が義務化される。虚偽・誇大表現の多い広告対策など課題は残る。同様の被害が続かぬよう、制度の根幹から再考すべきである。 

小林製薬に健康扱う資格ない(2024年7月30日『日本経済新聞』-「社説」)
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小林製薬の事実検証委員会による調査報告書(23日)
 
 健康増進に携わる企業として、利用者の安全・安心をないがしろにした経営姿勢にあきれる。創業家出身の会長、社長が辞めるのは当然だ。健康食品、サプリメントを製造・販売する資格はない。
 小林製薬の機能性表示食品「紅麹(こうじ)」サプリを巡る健康被害問題で、外部の弁護士らによる調査報告書がまとまった。
 腎障害などの原因と疑われている青カビの付着について製造現場は早い段階から認識していた。にもかかわらず報告を受けた品質管理の担当者は放置した。適切に対処していれば健康被害は防げたかもしれない。言語道断である。
 医師からの問い合わせに事実と食い違う症例報告の説明をしていたことも判明した。危機への認識が甘く情報の共有を怠った。
 小林製薬はユニークな広告を駆使したマーケティング戦略で業績を伸ばしてきた。消費者の嗜好性ばかりに目を向け、健康増進に活用する商品という特殊性を全く理解していなかったといえる。
 機能性表示食品制度は安全性や効果のデータを国に届け出さえすれば、何の審査もなく販売できる。事業者の性善説に立脚して成り立っている。
 健康食品やサプリに対する社会の期待を裏切り信用を失墜させた責任はとても重い。企業統治コーポレートガバナンス)の改革が急務である。
 創業一族が発行済み株式の約3割を持つとみられる小林製薬の不祥事は、社外取締役による経営の監視の重要性をあらためて示した。取締役会議長を社外から選ぶ体制としたのは、改革の方向性として当然である。
 さらに考えるべきは社外取締役の独立性の厳格化だ。一般に在任期間が12年程度を超える社外取締役は独立性が弱いとして、株主総会で再任に反対する投資家もいる。創業一族が社外取締役の人選に影響力を持ちうる企業であれば、なおさら強い独立性が求められる。小林製薬の統治改革ではこの点からの検証も欠かせない。

小林製薬の紅麹報告書 健康扱う自覚欠けている(2024年7月25日『毎日新聞』-「社説」)
 
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紅麹サプリの健康被害問題で記者会見を終えて頭を下げる小林製薬小林章浩社長(手前から2人目)=大阪市北区で2024年3月29日午後6時31分、加古信志撮影
 
 安全より業績を優先する姿勢が目に余る。医薬品や健康食品を扱うメーカーとしての自覚を欠いていたのは明らかだ。
 
 小林製薬の機能性表示食品「紅麹(べにこうじ)」サプリメントによる健康被害問題を巡り、有識者が検証した調査報告書がまとまった。
 
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小林製薬サプリメント「紅麹コレステヘルプ」=東京都千代田区で2024年4月8日、前田梨里子撮影
 青カビ由来の成分の混入で、摂取した人に腎機能障害などが広がり、死者も出た問題である。報告書では安全対策や危機管理のずさんさが改めて浮き彫りになった。
 菌の培養は厳格な衛生管理が必要だが、製造工場のタンクに青カビが付着していたとの証言があった。乾燥機の故障や排気の不全も放置されていた。
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小林製薬本社が入るビル=大阪市中央区で2024年4月6日午後2時、中川祐一撮影
 主力商品にしようと生産を増やす一方、運用は現場任せで、人手不足が常態化していた。問題発覚後も、経営陣はこうした実態を把握していなかった。
 企業統治(ガバナンス)は機能不全に陥っていた。
 1月中旬から健康被害の情報が相次いで寄せられ、診断した医師から対応を促す声もあった。だが、2月上旬に報告を受けた小林章浩社長は回収などの指示を出さなかった。公表されたのは2カ月以上たってからで、業績などへの「風評リスク」を考慮したとの記録も残っている。
 消費者庁への機能性表示食品の届け出の際、有害事象が起きれば因果関係不明でも速やかに国に報告するとの手順を示していた。しかし、実際には「報告は因果関係が明確な場合に限る」との方針が打ち出され、誰も異論を挟まなかった。消費者の安全を置き去りにしたご都合主義と言うほかない。
 こうした意思決定は、社長以下数人による毎週の幹部会議でなされ、4人いる社外取締役には国への報告直前まで正式に伝えられなかった。社内規程にある危機管理本部も設置されなかった。
 小林社長は報告書を受けた記者会見を開かず、説明責任を果たしていない。父親の小林一雅会長とともに辞任し、創業者一族ではない専務が後任の社長に就く。企業風土の抜本改革が不可欠だ。
 被害の全容はいまだ明らかになっていない。徹底した情報開示と迅速な補償を進めなければ、重大な不祥事によって失われた信頼は回復できない。

小林製薬 安全軽視の社風が甚だし(2024年7月25日『読売新聞』-「社説」)
 
 健康の維持を助けるサプリメントを製造しているにもかかわらず、消費者の安全を軽視した対応に終始していたことは許されない。
 小林製薬は、「 紅麹べにこうじ 」サプリメントを飲んだ人に健康被害が相次いでいる問題の責任を取って、創業家出身の小林一雅会長と小林章浩社長が辞任すると発表した。外部の弁護士による調査報告書も合わせて公表した。
 後任の社長には、来月8日付で、山根聡専務が昇格する。創業家以外の社長は初めてだという。
 報告書が問題視したのは、まず、被害状況の公表や製品回収が遅れるなど初動対応の鈍さだ。
 小林製薬は1月半ば、サプリによる健康被害を把握したが、行政への報告や、製品の自主回収を公表したのは3月下旬だった。
 報告書は「消費者の安全を最優先に考えることができていなかった」とし、遅くとも2月上旬に、「全社を挙げて早急に対処すべき緊急事態」だったと批判した。
 健康被害が広がっていたにもかかわらず、あまりにも危機意識を欠いた対応だ。小林社長は当初から陣頭指揮を執らず、危機管理本部すら置かなかったという。企業統治の不全は明らかである。
 安全を軽視した社風も深刻である。行政への報告は、製品と被害の因果関係が「明確な場合に限る」と勝手に解釈していた。
 さらに経営陣による会議で、行政への報告が必要かどうかを協議した際の資料には、「レピュテーション(評判)リスク、事業影響を考慮し判断」と記載されていたという。業績悪化を恐れ、報告が遅れたとすれば、言語道断だ。
 また、報告書では、従業員からの聞き取り調査の結果、工程管理のずさんさも判明した。
 工場内に設置された紅麹の培養タンクの内側に、健康被害との関係が疑われる青カビが見つかったことがあったが、当時の担当者は、「青カビはある程度は混じることがある」として放置した。
 品質の管理体制を徹底的に改めていく必要がある。
 説明責任を果たそうとしない姿勢も看過できるものではない。
 このサプリでは、亡くなった約100人について、疾患との因果関係が調査されており、消費者の不安は強い。だが、小林製薬は今回、トップの交代を発表しただけで、記者会見を行わなかった。
 再発防止策をまとめるのは当然として、このような事態を招いた原因や背景をどう考えているのか。会見を開き、語るべきだ。

小林製薬 説明尽くす自覚が見えぬ(2024年7月25日『産経新聞』-「主張」)
 
 小林製薬が、紅麹(べにこうじ)サプリメントによる健康被害への対応を調査した事実検証委員会の報告書を公表した。
併せて小林一雅会長と小林章浩社長の辞任を決めた。後任社長に山根聡専務を充てる人事も発表した。
 外部識者による報告書で浮かび上がったのは、健康関連商品を扱いながら安全を軽視するという許されざる企業風土である。
 安全確保のための経営判断や指示を出さなかった経営陣の責任は極めて重く、トップ2人の引責辞任は当然だ。
 納得できないのは経営陣が記者会見を開かなかったことである。これでは報告書の中身やトップの責任について説明を尽くしたことにはならない。
 同社はこれまでも消極的な情報発信や隠蔽(いんぺい)体質が強く批判されてきた。その教訓を生かす姿勢は見られない。これでは信頼の回復など到底望めないことを厳しく認識すべきである。
 報告書によると、腎疾患との関連が指摘される青カビについて、製造現場が紅麹培養タンクに付着していたことを認識しながら放置していた。腎疾患を把握した後も医師の問い合わせに「副作用はない」と答えていた。安全面での重大な不作為である。
 そもそも健康被害を最初に認識してから2カ月以上も自主回収や公表をせず、社外取締役にも報告していなかった。3月の記者会見でその点が批判されたのに、6月末には調査中の死者数を厚生労働省に報告していなかったことも分かっている。
 紅麹サプリを巡る健康被害は大きな社会問題となった。その原因や背景について、同社を率いてきた経営トップが会見で自ら説明することはユーザーに対する最低限の責務のはずだ。
 創業家2人の引責辞任といっても、一雅氏は特別顧問となり章浩氏は取締役にとどまる。新体制になっても2人の影響力が維持されるなら、組織の刷新とはいえまい。こうした懸念にも明確に答えるべきだ。
 新社長となる山根氏は、再発防止や企業風土の改善にどう対処するのか。その点も具体的に示さなくてはならない。
 経営陣として当然の説明責任すら果たさないまま幕引きを図るつもりなら、その認識は甘すぎる。同社はいま一度、問題の深刻さを自覚すべきだ。

組織の汚れ落とすには、小林製薬の体制刷新(2024年7月25日『産経新聞』-「産経抄」)
 
 日本のお手洗いで、本格的な水洗化が進んだのは昭和50年前後という。その当時は「不浄」のイメージが強く、洗浄剤や芳香剤の商品化に乗り出すメーカーは低く見られた。関連市場に早くから商機を求めたのが小林製薬である。
 
▼トイレ用芳香剤の開発で、同社が重視した要素の一つは「食べても安全」だった。新製品発表の記者会見では、担当社員がかじってみせ、安全性をアピールしたという逸話もある。トイレに漂う臭いを、匂いに変えた企業といえるかもしれない。
▼不浄なものに敏感な同社がなぜ食品を作る工場の汚れを軽視したのだろう。健康被害の広がりが疑われる紅麹(べにこうじ)サプリを巡り、紅麹を培養するタンクに付いた青カビを現場の担当者が放置していた。この青カビは、サプリから検出された毒性のある物質との関連が指摘されている。
▼製品の自主回収は、健康被害の把握から2カ月以上も後だった。その間も、不調を訴える消費者は増え続けた。早くに注意喚起すべきではなかったのか。創業家の流れをくむ小林一雅会長と小林章浩社長は引責辞任したが、会見による説明はない。
▼情報開示への及び腰が「隠蔽(いんぺい)体質」と批判されるのも無理はない。その昔、消費者から苦情が寄せられた芳香剤について、一雅氏は現場に早期の改善を指示したことがある。難色を示す担当者を、こう諭したという。「小林製薬の都合、あなたの都合で仕事を進めたらあかん」
▼消費者本位の姿勢は、いまは見る影もない。トイレと同じで、組織の汚れは人目につかぬところでたまり、気付いたときには簡単に落ちなくなるらしい。同社の売り出す洗浄剤より、さらに強力な汚れ落としが必要に見える。体制の刷新はその一歩となるのか。

紅こうじ検証 被害広げた無責任体質(2024年7月25日『東京新聞』-「社説」)
 
 小林製薬大阪市)が製造した「紅こうじ」入りサプリメント健康被害を調査した「事実検証委員会」が報告書を公表した。危機意識を欠き、安全性を軽視する企業体質が明らかになった。
 同社は小林一雅会長と小林章浩社長の引責辞任を決めたが、事態の深刻さを考えれば遅きに失した判断だ。被害の正確な状況や原因すら依然判明していない。監督官庁や捜査機関が全容解明に乗り出すべきではないか。
 検証委は外部の弁護士3人で構成。報告書で会長、社長が「安全性確保のために率先して製品回収や注意喚起の判断や指示をしなかった」と無責任ぶりを批判した。
 自社製品による健康被害を認識しながら、対応を怠っただけでも経営者として失格だが、率先して対応しなかった背景に、消費者の健康より自社利益を優先するあしき企業風土が社内全体に広がっていたことがうかがえる。
 さらに報告書は、同社が腎疾患の症例を把握した後も、連絡してきた医師に「副作用はない」と回答したり、工場の紅こうじ培養タンクに青カビが付着しているのを知りながら放置していた製造現場の実態も指摘した。厚生労働省への被害報告が度々遅れたことも含めて、同社のずさんな管理体制にはあきれるほかない。
 厚労省を中心に被害調査を進めているが、政府の対応の遅れは否めない。健康被害は底なしの様相をみせており、もはや捜査機関が前面に出て徹底的に調べるべき段階にきているのではないか。
 サプリを巡る健康被害の実態把握が極めて難しいとしても、多くの被害者が泣き寝入りするような事態は絶対に避けなければならない。厚労省消費者庁は、消費者が健康被害をより円滑に訴え出られる環境を整えるべきだ。
 同社は8月8日付で創業家以外からの社長が初めて就任するが、現会長は特別顧問、現社長は補償担当の取締役として残る。創業家の経営支配下健康被害が起き、対応も著しく不誠実で無責任だった以上、2人とも速やかに経営から身を引くべきは当然である。

小林製薬報告書 健康と説明の軽視明らか(2024年7月25日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 危機意識の欠如が被害拡大を招いたことは明らかだ。経営陣の責任は重い。
 小林製薬の紅こうじサプリメントによる健康被害の疑いである。
外部識者が同社の対応を調査した報告書が公表された。問題は、甘い品質管理や対応の遅れなど幅広い。消費者の健康を守る責任感が同社にあったか疑わしい。
 因果関係の調査が必要な死亡疑い事例は7月21日時点で101人、医療機関を受診した人は延べ2千人以上に上っている。
 被害は拡大しているのに、報告書発表と小林章浩社長の引責辞任を受けても、同社は記者会見を開かず、広報などの公式対応もなかった。経営陣は3月29日を最後に公の場で説明していない。今後の救済方針など説明するべきことは大量にある。これでは消費者らの不信を深めるだけだ。
 同社が最初に症例を確認してから発表するまで2カ月以上かかったことが、被害の拡大を招いた疑念も拭えない。責任を果たさない企業に、食品を扱う資格があるのか疑問だ。
 最大の問題は、サプリを摂取した患者が急性腎不全を起こしたとの連絡を1月15日と2月1日に医師から受けたのに、行政への報告を怠り、回収などの対策もせずに状況を放置したことだ。
 機能性表示食品に関するガイドラインは、健康被害の発生や拡大の恐れがあれば、速やかに消費者庁に報告することになっている。同社は「行政への報告は因果関係が明白な場合に限る」と独自解釈をして、報告は不要と判断。被害を報告してきた医師にも「副作用はない」と回答した。
 2月6日に状況を把握した小林社長も事態を軽視した。対策を取らなかったばかりか、製品の広告も続けていた。出荷停止や回収の方針を決めたのは3月18日だ。製品から意図しない成分を検出したことが報告された後である。
 最初に症例を把握した時点で行政に報告し、注意喚起や製品回収をしていれば、被害の拡大は防げたのではないか。
 現場の品質管理体制では、培養タンクに青カビが付着しているのを認識しながら放置していたことも分かった。腎疾患との関連が指摘される「プベルル酸」が発生した原因の可能性がある。
 食品を扱う企業に欠かせないのは、消費者の安全を何よりも優先する意識と体制である。徹底した品質管理と情報公開がなければ、消費者の信頼を再び得ることはできない。

小林製薬の報告書 安全意識の欠如が深刻だ(2024年7月25日『新潟日報』-「社説」)
 
 安全意識が甚だしく欠如していた実態が明らかになった。消費者を置き去りにした後手の対応で被害を拡大させながら、トップは説明すらしておらず、上場企業としての責任が全く感じられない。
 紅こうじサプリメントによる健康被害疑いを巡り、小林製薬が外部識者による「事実検証委員会」の報告書を公表した。
 報告書によると、サプリ原料から検出され、腎疾患との関連が指摘されるプベルル酸を産生する青カビが、紅こうじ培養タンクに付着していたが、工場の品質管理担当者は放置していた。
 品質管理業務は現場任せだった。人手不足が常態化し、上司への報告は不十分だったという。ずさんな管理体制にはあきれる。
 また同社は、腎疾患症例の把握後も医師の問い合わせに「副作用の報告はない」と回答していた。
 因果関係を調査している死亡疑い事例は、7月21日時点で当初発表分を含めると計101人に増えている。医師の警鐘を無視しなければ、被害の拡大を防げた可能性がある。消費者の安全を軽視した対応は許し難い。
 問題なのは、組織として危機対応ができていないことだ。
 経営陣による審議会は途中から、録画や議事録の作成をしなくなり、重大事故の恐れがある際に設置が定められている危機管理本部も設けなかった。
 同社は、国などへの健康被害の報告基準を「因果関係が明確な場合に限る」としていたが、事前に社内で作ったフローチャートには因果関係が不明でも報告すべきだと定めており、矛盾していた。
 評判や業績を優先した対応は、不信と疑問を抱かせるものだ。
 同社が情報開示に後ろ向きな背景にはトップの意向があったという。悪い情報ほど早期に発表するなど丁寧な対応が欠かせないだけに、企業統治に疑問符が付く。
 報告書はトップが、安全性確保へ率先して製品回収や注意喚起の判断、指示をしなかったとした。
 創業家の会長、社長のトップ2人の無責任さが、被害拡大を招いたと言わざるを得ない。
 報告書の公表と同じ日に、トップ2人は辞任するとしたが、記者会見を開かず、健康被害を直接説明することはなかった。これでは消費者らの不信を拭えるはずはなく、どこまで責任を感じているのか、首をかしげる
 サプリを常飲し腎機能が低下した消費者によると、同社から謝罪の一文が載った書類は届いたが、社長の名前はなかったという。
 社長は引責辞任したが、健康被害の補償を担当する取締役に残る。社員が創業家の顔色をうかがう現体制が維持され、問題がたなざらしになることも懸念される。
 再発防止を図るには、国など行政による徹底的な調査や指導が欠かせない。

小林製薬の対応/あきれる安全意識の欠如(2024年7月25日『神戸新聞』-「社説」)
 
 健康食品を取り扱う会社とは思えない安全意識の欠如が露呈した。信頼回復には企業風土の抜本的な改革が不可欠だが、その道のりは遠いと言わざるを得ない。
 小林製薬の機能性表示食品、紅こうじサプリメントを巡る健康被害問題で、同社は外部弁護士3人でつくる「事実検証委員会」の報告書を公表した。浮かび上がったのは、消費者を顧慮しない内向きの論理だ。
 同社は医師からの連絡で1月15日に急性腎不全の症例を把握したが、2月1日の別の医師による問い合わせに対し「腎疾患の報告はない」と答えていた。被害の隠蔽(いんぺい)が疑われる悪質な対応だ。
 同社が被害を公表したのは3月下旬だった。その後も死亡例の公表基準を独自に「因果関係が判明したケース」に絞ったため、厚生労働省などへの報告が再び大幅に遅れた。
 7月21日時点で因果関係を調べている死亡疑い例は101人に上る。初期対応のまずさが健康被害を広げた可能性は否めない。腎臓に重い障害を負った患者が未受診のままになっている恐れもある。今からでも被害の深刻さを周知し、診療を受けるよう強く呼びかけねばならない。
 驚くべき事実も判明した。製造過程で紅こうじ培養タンクへの青カビ付着を認識しながら放置していたという。現場から報告を受けた品質管理担当者は「青カビが混じることはある」と問題視しなかった。
 健康被害の原因は、サプリの原料から検出された想定外の有害物質「プベルル酸」が有力視されている。青カビ由来とされ、動物実験では重い腎障害を引き起こすことが確認された。慢性的な人手不足を含め、衛生管理体制の拙劣さが被害の引き金を引いた可能性がある。
 機能性表示食品制度は規制緩和策の一環で導入された。特定保健用食品と異なり、国は審査しない。消費者の安全を置き去りにする危うさをはらんでいる点を銘記したい。
 小林製薬は報告書公表に合わせ、創業家一族である小林章浩社長、小林一雅会長の引責辞任を発表した。報告書は、問題発覚後も危機管理本部を設置せず、率先した対応も怠ったトップの無責任体質を指弾した。にもかかわらず章浩社長が取締役にとどまり、補償対応に当たるのは理解に苦しむ。
 同社は報告書に関する記者会見を開かず、質問にメールで回答した。経営陣が厳しい質問にさらされる事態を避けようとしたのかもしれないが、内向きの企業姿勢を改めようという姿勢が全く感じられない。即刻会見を開き、被害者や消費者に謝罪するとともに今後の対応方針について説明を尽くすべきだ。