米兵による女性暴行事件が相次いで発生したことを受け、在日米軍司令官のリッキー・ラップ中将は22日、軍のホームページで「日本政府と連携し、在日米軍と沖縄県、地域住民が協力する新たな意見交換の場となる『フォーラム』を創設する」と発表しました。
ラップ司令官は、「建設的な意見交換の場となる」としていますが、参加するメンバーや議題、開催時期など詳細は今のところ明らかになっていません。
玉城知事は「事件の再発防止に真摯に取り組んでいることの現れである」と評価した一方、「より実効性のある再発防止策となるよう求めていく」とするコメントを出しました。
米軍事件で新枠組み 実効性が厳しく問われる(2024年7月24日『琉球新報』-「社説」)
これでは屋上屋を架すような対応だ。これで米軍人・軍属による卑劣な性的暴行事件を防ぐことができるのか、実効性が厳しく問われている。
在沖縄米兵の性的暴行事件が相次いで発覚した問題で、在日米軍司令部は日本政府と連携して、在日米軍幹部、沖縄県、地域住民による新たな枠組みとなる「フォーラム」を創設すると明らかにした。沖縄県警との合同パトロールに向け、米軍のパトロール回数を増やす方針だという。
現時点で詳細は明らかになっていないが、今回の方針には首をひねらざるを得ない。米兵らが引き起こす事件・事故について協議する枠組みや組織は既に存在している。それが機能しないまま休眠状態になっているのである。
稲嶺恵一県政当時の2000年、「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム」が始動した。しかし、県の開催要求にかかわらず7年ほど開催されていない。さかのぼれば、西銘順治県政当時の1979年にも在沖米軍、国、県による三者連絡協議会が発足したが、2003年の開催を最後に自然消滅した。
いずれの枠組みも、米軍基地の運用に関わるような具体的な協議に米側が消極的なために機能しなくなったとされる。今回、在日米軍の提案で創設される「フォーラム」も同じような状態に陥る可能性がある。新たな枠組みを設けたところで実効性を発揮しなければ意味をなさない。単なるアリバイづくりである。
そもそも米軍事件・事故の通報体制について定めた1997年の日米合同委員会合意すら形骸化している。日米合意が履行されないまま米軍事件が繰り返されているのだ。
「フォーラム」を創設する米軍と日米両政府は過去の2組織の機能停止について検証し、新組織で何を目指すのか、何を対象に協議するのか具体的に決める必要がある。基地の運用に関わるからといって米側が参加を渋るようなことがあってはならない。
だが、県警側が日本の警察権が円滑に行使できないと懸念を示し、実行されなかった。県警が、身柄の措置で問題が起きる可能性や、既存の警察力の低下を招く恐れがあることを危惧したのだ。
逮捕権や捜査権がないがしろにされるような事態を招いてはならない。玉城デニー知事は「具体的な内容が速やかに示されることを期待する」とコメントした。主権を侵害する恐れのある合同巡回を安易に認めてはならない。
米軍「フォーラム」創設へ 実効性ある体制 構築を(2024年7月24日『沖縄タイムス』-「社説」)
県内で米兵による女性暴行事件が相次いだことを受けて、在日米軍司令部が日本政府と連携し、在日米軍の幹部や沖縄県、地域住民による「フォーラム」を創設すると明らかにした。「建設的な意見交換の場として機能する」としている。
一連の事件の発覚を受け、県議会は全会一致で抗議決議案を可決した。被害者への謝罪や補償、精神的なケアとともに、綱紀粛正の徹底や夜間の外出規制といった再発防止策を示すよう求めた。
エマニュエル駐日米大使と在沖米軍トップのロジャー・ターナー四軍調整官は、全軍の部隊に基地外での行動を制限するリバティー制度を導入する対策を打ち出した。しかし、具体的な内容は示されておらず、再発防止策につながるかどうかは疑問である。
実際に、米兵による少女誘拐暴行事件の初公判があった夜、嘉手納基地へと続く沖縄市のゲート通りは多くの米兵でにぎわっていた。本紙の取材に応じた米兵は、外出制限について「特別な規制はない」と答えている。
県内で今年上半期に刑法犯で摘発された米軍人や軍属、その家族は、昨年同期比で14人増の39人となり、年間の摘発者が過去10年で最多だった昨年を上回るペースで推移している。強盗や不同意性交等などの凶悪犯、傷害や暴行などの粗暴犯は昨年1年間を既に上回っている。
現状を踏まえた再発防止への取り組みに、地元との話し合いは欠かせない。まずは地域に開かれた実効性のある枠組みの構築を求めたい。
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米軍人や軍属、その家族による事件や事故については、日米による「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム(CWT)」が設置されている。
2000年7月、女子中学生に対するわいせつなど米兵の事件が相次いだことを受けて、米軍や日本政府、県警、県内の自治体などで同年10月に発足した。翌年以降から開催が減り、年1回程度になって17年を最後に開かれていない。
米兵の事件を巡っては、米軍司令官が沖縄防衛局に通報する1997年の日米合意もある。しかし、今年になって発覚した一連の事件では連絡がなかった。95年の米兵暴行事件を受けての措置だったが、制度が形骸化していることが露呈した。
必要とされているのは、沖縄に米軍基地がある限り、機能し続ける協議の枠組みと通報体制である。
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玉城デニー知事は年内に訪米し、相次ぐ米兵の事件について「県内の女性や子どもの不安につながっていることを米側にしっかりと伝える」と表明した。
訪米で実効性の伴う再発防止策を求める意義はあるだろう。一方、11月には大統領選を控えており、時期については慎重に見極めてほしい。
米兵による事件・事故の被害者補償制度ができて久しい。しかし、いまだに泣き寝入りをせざるを得ない状況も多い。日本政府も当事者として、米国へ抜本的な取り組みを迫るべきだ。