システム障害に関する社説・コラム(2024年7月21・23・24日)

ウィンドウズ大規模障害は社会への警鐘だ(2024年7月24日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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大規模システム障害により各地で航空便の遅延や欠航が相次いだ(19日、米アリゾナ州) =AP
 
 世界各地で米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」を搭載したパソコンなどの端末が使えなくなる大規模なシステム障害が発生した。ITへの依存を強める社会全体への警鐘ととらえ、リスクやその軽減策を考える契機にしたい。
 障害は19日に発生し、世界で850万台の端末が影響を受けたもようだ。米セキュリティーソフト大手、クラウドストライクが顧客企業にインターネット経由で配布した更新ソフトに不具合があり、異常発生を示す青い画面の表示が相次いだ。
 クラウドストライクはパソコンなどの端末を常時監視してサイバー攻撃を検知する最新型のソフトを提供している。被害対象は世界で稼働するウィンドウズ端末の1%未満だったが、同社が世界の有力企業を顧客として抱えていたため、航空や金融、放送といった幅広い業界で影響が出た。
 ソフトを配布する際は事前に安全な環境で正しく動作するか確認するのが一般的だ。クラウドストライクもこうした手順を踏んだはずだが、なぜ不具合を見逃したのか。原因を突き止めて再発防止に役立てる必要がある。IT業界全体もその経験から学ぶべきだ。
 ただし、どれほど技術が進化しても、ソフトの不具合やシステム障害を完全に排除するのは難しいのも事実だ。こうした基本的な特徴を理解し、企業は事業にITを取り入れる必要がある。
 まず重要になるのは、障害の発生を前提とした事業継続計画の策定だ。幅広いシナリオに基づいて、障害が発生した際の対応や復旧に向けた手順を定める。刻々と変化する事業環境に合わせて計画を見直す姿勢が欠かせない。
 利用するソフトやサービスを分散させることも検討課題になる。製造業では部品の調達先を増やすことでサプライチェーン(供給網)が寸断するリスクを低減する動きが広がった。ただ、IT業界では保守運営を含むコストが膨らむなどの弊害も大きい。こうした対策は重要度が高い一部のシステムに限られるだろう。
 前提となるのは自らが手がける業務を分析し、重点的な対策が必要なシステムを特定する能力だ。特に日本はIT分野における投資や人材の不足が指摘されて久しい。IT部門が担う役割の大きさを理解し、適正な規模の経営資源を振り向けるべきだ。

世界でシステム障害 IT寡占の危うさを露呈(2024年7月23日『毎日新聞』-「社説」)
 
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青色に変わって作動しなくなった出発便のモニター=米ニュージャージー州ニューアーク空港で2024年7月19日、ロイター
 デジタル社会の危うさを露呈した。一つのシステムやソフトに依存するリスクへの対処法を、企業や政府は考えなければならない。
 過去最大規模のシステム障害が世界を襲った。パソコン画面が突然、青色に変わり、動かなくなった。航空便の欠航や遅延が相次ぎ、金融や小売りでは決済機能に支障が出た。影響は医療機関や放送局にも及んだ。
 米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」が動作不良を起こしたためだ。米IT企業「クラウドストライク」のセキュリティーソフトの更新で問題が生じたという。
 クラウド社は顧客に修正プログラムを配布したが、世界中に拠点がある航空業界では、復旧に数日かかったケースもある。
 ソフト更新時には、トラブルが起きないか事前にテストをしているはずだ。クラウド社は原因を解明し、再発防止を徹底すべきだ。
 浮き彫りになったのは、たった一つの不具合でも世界中に混乱が広がるリスクである。
 問題を起こしたソフトは、企業のサーバーやパソコンの安全をネット経由で監視する機能を持つ。クラウド社はこの分野で市場の約2割を握るトップ企業だ。
 ウィンドウズはパソコンOSの約7割を占め、多くの企業向けシステムにも使われている。
 大手のシェアが高まるのは、膨大な顧客データを生かして品質を向上できる強みがあるためだ。ただ、寡占の度合いが強まるほどトラブルの被害も大きくなる。
 事態が悪化した背景には、パソコンなどをサーバーにつないで利用するクラウドの普及もある。
 必要に応じて外部のソフトやデータを利用できるため、顧客は効率的にシステムを整備できる。セキュリティーソフトの更新を迅速に行えるメリットもある。
 一方で、クラウドを利用する端末が増えれば、システム障害やウイルス感染の被害も拡散しやすくなる。テレワークの普及で、こうした懸念も強まっていた。
 企業や政府はデータの復元やバックアップのシステムに穴がないか、点検を重ねることが肝要だ。
 利便性と安全性を両立させ、デジタル社会の強靱(きょうじん)性を高める取り組みが求められる。

システム障害 デジタル社会への警鐘だ(2024年7月23日『産経新聞』-「主張」)
 
 
 巨大IT企業のデジタルサービスは使いやすく、多くの企業や消費者に受け入れられてきた。
だが、一部サービスへの依存が高まることで、ひとたびそのサービスに障害が起これば多大な影響が生じるリスクを抱えている。
 日本時間19日に世界各地で発生したシステム障害は、そんな現状に対する警鐘であり、デジタル社会の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにしたといえる。
 システム障害は米IT大手マイクロソフト(MS)の基本ソフト(OS)であるウィンドウズ搭載のシステムで発生した。米サイバーセキュリティー企業クラウドストライクのソフト「ファルコン」の更新プログラムにあったバグ(不具合)が原因だった。
 MSによると、ウィンドウズを搭載する電子端末のうち、推定で850万台がシステム障害の影響があったとしている。運輸や金融などの基幹システムが打撃を受けるなど、影響は世界各地に及んだ。病院や行政サービスにも支障が生じた。
 中でも航空分野への影響が大きく、航空情報サイト「フライトアウェア」によると、世界で4万便超が遅延し、5千便以上が欠航を余儀なくされたという。日本でも格安航空会社(LCC)ジェットスター・ジャパンで欠航が相次ぐなど影響が広がった。
 今回のシステム障害は、一部のITサービスに依存するリスクを露呈した。
 デジタル社会では使い勝手のいい一部のITサービスの寡占が進みやすい。システム障害の原因となったファルコンもサイバー攻撃を警戒する企業や政府機関などの採用が進む。パソコンなどの端末側の異常を常時監視する機能を持ち、世界に3万近くの顧客を抱えている。
 クラウドストライクに限らず、世界的に高いシェアを持つIT企業は、その責任の重さを自覚し、自社サービスが大規模障害を起こさないよう細心の注意を払わなければならない。
 顧客側も万一の際の代替手段を考えておくべきだ。完全な代替は無理にしても、データのバックアップや、システムの二重化など不測の事態に備えてできることはある。そうした一つ一つの積み重ねが、デジタル社会における危機管理の強化につながるはずだ。

システム障害 世界を麻痺させたITの寡占(2024年7月21日『読売新聞』-「社説」)
 
 世界各地で発生した大規模なシステム障害は、生活の基盤をデジタル技術に依存する社会の 脆弱ぜいじゃく 性を浮き彫りにした。官民で危機管理のあり方を再考していく必要がある。
 コンピューターの大規模なシステム障害が19日に世界規模で起きた。米マイクロソフトが提供する基本ソフトウェア(OS)「ウィンドウズ」を搭載したパソコンの画面が青くなり、操作ができなくなる状態が頻発した。
 影響が大きかったのは航空分野だ。日本では、日本航空の予約管理システムに障害が生じたほか、格安航空会社のジェットスター・ジャパンで欠航が相次いだ。
 米国でも、主要航空会社のすべての航空便が発着できなくなるなど、世界で計4万を超える航空便が遅延したという。
 海外では、さらに物流や金融、放送、医療サービスなど、幅広い分野にまで被害は広がった。
 米国では、病院で手術を受けられなくなった。英国のニュース放送局は、放送を一時中断した。豪州の金融機関は、一部の顧客への送金ができなくなったという。
 過去最大級のシステム障害である。20日も被害が残り、生活への影響は甚大だ。マイクロソフトなどは完全復旧を急いでほしい。
 世界を 麻痺まひ させた障害の原因は、米サイバーセキュリティー会社クラウドストライクのソフト「ファルコン」だ。クラウドを通じて提供しており、ウィンドウズ向けの更新作業で問題が生じた。サイバー攻撃ではないという。
 2011年創業のクラウドストライクは、パソコンなどの情報をサイバー攻撃から守る分野で、世界首位のシェア(占有率)を持ち、約3万社の顧客を抱える。
 世界の各企業は、コロナ禍で在宅勤務が広がる中、セキュリティー対策の一つとして、このソフトの導入を進めてきた。
 かねてIT分野では寡占が起きやすいと指摘されている。今回の大規模障害は、特定の少数企業に依存しすぎるリスクをあらわにしたと言えよう。まずは米2社が再発防止策を徹底するべきだ。
 生産性の向上や人手不足に対応した省力化などデジタル化はあらゆる分野で進んでいる。
 特にインターネットを通じてデータを出し入れできるクラウドは、国民生活に不可欠な金融や医療、電力などで活用が広がり、重要な社会基盤になっている。
 今回を教訓に、官民を挙げて、障害が起きた際の危機対応策を整えていくことが大切になる。