「性暴力は基地問題」 米兵事件、沖縄全土に広がる怒り(2024年7月13日『毎日新聞』)

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沖縄県うるま市で20歳の女性が米軍属に暴行、殺害された事件を受け、開かれた県民大会で「怒りは限界を超えた」のプラカードを掲げる参加者たち=那覇市で2016年6月19日午後3時18分、野田武撮影
 沖縄県で米兵による性的暴行事件が相次いで発覚した。県議会は10日、「米軍の人権意識に問題がある」とする抗議決議を全会一致で可決し、県内の市町村議会でも同様の決議などが次々と可決・採択される。なぜ、怒りは県全体にまで広がるのか。専門家は、沖縄で米兵による性暴力が繰り返されてきた歴史に加え、ある点を指摘する。
 「『沖縄では米軍絡みの性犯罪が殊更騒ぎ立てられる』と言われることもあるが、以前から大きく取り上げられてきたわけではない」
 沖縄の女性史研究者、宮城晴美さん(74)=那覇市=はそう言う。米軍関係者による性的暴行などの事件は近年、沖縄県に集中する米軍基地負担の問題として捉えられる。宮城さんは、そうした認識が広がったきっかけとして1995年の事件を挙げた。
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由美子ちゃん事件(1955年9月)

沖縄米兵の「性暴力」、相次ぎ発覚ナゼ? 知事に報告ナシ…専門家「隠ぺい」 県警は「プライバシー保護」【#みんなのギモン】(2024年7月13日『日本テレビ放送網』)
 
沖縄米兵の「性暴力」、相次ぎ発覚ナゼ? 知事に報告ナシ…専門家「隠ぺい」 県警は「プライバシー保護」【#みんなのギモン】
沖縄に駐留するアメリカ軍兵士による性暴力が後を絶ちません。占領下から繰り返されているだけでも深刻ですが、最近は沖縄県知事にも報告されていなかった重大事案が相次いで発覚。県民の間に怒りが広がっています。被害の実態や関係者の反応をまとめました。
そこで今回の#みんなのギモンでは、「米兵の性暴力 なぜ防げない?」をテーマに、次の2つのポイントを中心に解説します。
●事件発覚相次ぎ 広がる怒り
●通報経路 機能せず
■初公判で空軍兵の被告が語ったこと
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小野高弘(日本テレビ調査報道班)
沖縄県内で、アメリカ軍兵士による性暴力事件が相次いで発覚しています。事件をめぐる情報伝達が遅いことも問題になっています」
「12日、沖縄・那覇地裁アメリカ軍兵士の初公判が行われました。起訴されているのは、嘉手納基地所属の空軍兵、ブレノン・ワシントン被告(25)です」
「去年12月、沖縄県内の公園で16歳に満たない少女に声をかけ、車で自宅に連れ込んで性的暴行を加えたとして、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で今年3月に起訴されました」
「検察側は冒頭陳述で『ワシントン被告は突然、少女の首をつかんでキスをして性的暴行を加えた』などと指摘。これに対し被告は『私は無罪です。誘拐も性的暴行もしていません』と否認しました。被告の弁護士は『同意のもとだった』などと、無罪を主張しました」
■抗議集会で…70人から強い怒りの声
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小野解説委員
「11日夜、那覇市内で抗議集会が行われ、参加者が『基地があるが故に見えなくなってしまう性暴力がある。今この現状がおかしいと思うんですね』などと声を上げました」
「参加した約70人は、アメリカ軍関係者による性暴力が相次いでいると、強い怒りを表明しました」
鈴江奈々アナウンサー
「『基地があるから』という声が上がっていましたけれども、こういった性暴力の事件は今に始まったことではなくて、ずっと繰り返されてきていることです」
■50年間で凶悪犯罪は584件発生
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小野解説委員
沖縄県民が怒るのは当然です。アメリカの占領下だった時代から繰り返されてきた歴史があります」
「約30年前の1995年、3人のアメリカ兵が小学生の少女を殴ってテープで縛り、暴行した事件がありました。この事件を受けて沖縄県民の感情が爆発。大規模な抗議集会が続きました。2016年にはアメリカ軍関係者の男が、20代女性を暴行し殺害する事件が起きました」
沖縄県ではアメリカ軍関係者による事件が、2022年までの50年間で凶悪犯罪が584件、そのうち不同意性交の犯罪が134件起きています」
■事件の情報が知事に知らされない問題
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小野解説委員
「そして去年から今年にかけても起きています。去年2月には強制性交事件(不起訴)、去年8月には不同意性交事件(不起訴)、そして12日に初公判となった去年12月の事件がありました」
「今年5月下旬には、海兵隊員の20代の男が性的暴行をしようとして女性にけがをさせて逮捕され、その後、不同意性交致傷の罪で起訴されました」
「こうした事件が相次いでいること自体が問題ですが、今問題視されているのは、事件が起きたという情報が県知事に知らされていない、つまり県民に知らされていないということです」
「去年12月の事件を沖縄県が把握したのは、発生から半年経った6月25日でした。これが発覚したため、その後他の4つの事件も7月3日までに次々と明らかになったという経緯があります」
森圭介アナウンサー
「性暴力自体、国籍は関係ない話ですが、沖縄と基地の関係を考えると本当に重大な事案じゃないですか。これが報告されなかったということは理解に苦しみますよね」
在日米軍の事故・事件発生時の通報経路
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小野解説委員
「本来どうあるべきか。1997年に日米両政府は、公共の安全に影響を及ぼす可能性のある事件が起きた際には、アメリカ側が日本政府や自治体に情報を共有すると取り決められました」
「情報共有のルートは、まずアメリカ軍から日本にあるアメリカ大使館へ、そこから日本の外務省へ、防衛省から沖縄防衛局へ、そして沖縄県・市町村へ知らされるというものです」
「ルートはもう1つあります。アメリカ側が直接、沖縄防衛局に伝え、そこから沖縄県に伝えられるというものです。ところが12月の事件については、アメリカ軍と沖縄防衛局では情報共有されていません」
「さらに沖縄県警は、事件を把握していたのに被害者のプライバシー保護のために、県には情報を共有しなかったといいます」
忽滑谷こころアナウンサー
「逮捕もされていて情報共有がされていないというのはびっくりです。この時の外務省の対応はどういうものだったのでしょうか?」
小野解説委員
「外務省の方から県に情報共有されることはありませんでした。外務省はそれには理由があるとしています」
「『捜査当局は関係者の名誉や公判への影響などを踏まえて公表するかどうか判断している。外務省としても、捜査当局の判断を踏まえて対応を行ってきた』と説明しています」
■玉城知事が外務省に抗議…外相は
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「ただ沖縄県玉城デニー知事は3日、外務省に抗議しました。『本来であれば、子どもたちを誘拐から守ることを最優先に、直ちに関係機関・地域が連携して安全確保に取り組むべき事案であったと考えます』と怒っています」
「抗議を受けて、上川外務大臣は情報共有のあり方を関係省庁と検討し、アメリカ側に事件・事故防止の徹底を求める、と話しました」
刈川くるみキャスター
「日本側だけではなく、アメリカ側との連携も必要になる事案ですが、今回のことに関してアメリカ側はどういった説明をしているんでしょうか?」
小野解説委員
アメリカ空軍の司令官が6月に沖縄県庁を訪れました。『遺憾に思う』と述べましたが、謝罪の言葉はありませんでした」
沖縄国際大学の教授の見方は
 
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小野解説委員
「今事件が相次いでいる、そして情報伝達もできていない。どう見るか、沖縄国際大学の前泊博盛教授に聞きました」
前泊教授
「情報共有をしなかったということは隠ぺいされたようなもの。隠ぺいが新たな被害を引き起こした可能性もある。そもそも世界のアメリカ軍基地の中で、フェンスの向こう側で、性犯罪は数多く起きている。そして性犯罪は繰り返される。そのことを直視すべきだ」
■情報伝達の範囲は?…官房長官が説明
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小野解説委員
「日本政府としてどう対応していくのでしょうか?」
「林官房長官は情報伝達の範囲について『被疑者により犯行が行われたと認められる事案については、例外なく情報伝達を行う。また被害者のプライバシー保護の観点から、それぞれの事案ごとに伝達可能な範囲の内容を自治体に伝える』と説明しました」
沖縄県警は、アメリカ軍兵士らによる性暴力事件があった場合、検察と相談の上、事件の検挙や送検の段階で速やかに県と情報を共有する、という方針を示しています」
鈴江アナウンサー
「今回の事案が報道されるまで、沖縄県知事も知らなかったということに本当に驚きますけれども、今後速やかに情報共有されることで、まずは県民の皆さんが安全確保をできるようになってほしいなと、心から思います」
小野解説委員
「12日、アメリカの駐日大使が声明を出しました。『沖縄に駐留する兵士の訓練と教育を改善する。監視も強化する。全力を尽くす』。その言葉は、今はまだ信じられません」
(2024年7月12日午後4時半ごろ放送 news every.「#みんなのギモン」より)