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7月7日の投開票の東京都知事選挙は現職・小池百合子氏の圧勝で終わったが、当日に行われていた東京都議会議員の補選では事件が起きていた。自民党が2勝6敗という結果に終わったのだ。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。
最凶の女帝・百合子の圧勝…その裏で自民党はボロボロ
自民党への逆風はなかなか止まないどころか現在進行形で、暴風となっているようだ。7月7日に投開票が行われた東京都知事選では自民党が支援する小池百合子氏が3回目の当選を果たした。立憲民主党と日本共産党が推す蓮舫氏に、2倍の差をつけての圧勝だった。しかし、これは自民党が勝利したとは決していえない。
なぜなら、同日の都議補選では、自民党候補が「2勝6敗」という結果に終わったためだ。自民の小渕優子選対委員長は「真摯に受け止め、改めて襟を正し、党の信頼回復と政治改革に全力で取り組む」との談話を発表して謙虚な姿勢をアピールしているが、ボロボロと言っていい惨敗だ。
<都議補選は都内の次期衆院選の区割りとほぼ重なるため、各党の党勢を占う先行指標となる。自民は茂木敏充幹事長や石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、高市早苗経済安全保障担当相ら知名度の高い「ポスト岸田」候補が続々と応援に入り、総力戦を展開した。/自民は欠員が生じる前は全9選挙区のうち、5議席を占めていた。不記載事件に関与した国会議員の地元が含まれていることなどから、「4つ取れれば御の字」(都連幹部)との見方が広がっていた>(産経新聞、7月8日)
なんとかもぎ取った「2勝」も、中身はひどかった
自民党が勝利した議席の一つは、板橋区のものだ。この板橋区で行われた補選は、選挙中に無免許でひき逃げをして、説明責任もろくに果たそうとしなかった木下富美子氏が辞任した結果のものだ。木下氏の行動は、都民の反感を大きく買った。木下氏は都民ファースト選出の議員であり、今回の補選で、板橋区民が都民ファの候補を避けるのは当然のことといえよう。
もう一つの議席は、府中で得たものだ。ここも立候補者を見てみると、自民党、無所属、共産系(元東京地評議長)の3人が立候補をしている。東京地評は共産党と深いつながりのある組織だ。この共産系候補の選挙活動を見ていると、立憲民主党の議員が応援演説をしている。
有権者は不記載事件を忘れていない
つまり、この府中においても「野党共闘」が実現してはいるものの、立民に共産が乗っかるというものではなく、共産に立民が乗っかるというものだった。結果、この共産系候補(得票率24.9%で3位)は自民候補(43.6%、当選)に惨敗を喫している。この得票率(2位の無所属は31.4%)は、小池氏と石丸氏、蓮舫氏の差にも似ているので、やはり蓮舫氏自身に人気がなかったことに加えて、共産色・リベラル色がですぎての敗北ということになろう。
いずれにしろ、自民党がなんとか勝ち取った「2勝6敗」の「2勝」は、「敵失」に救われての勝利だということになる。勝ちに不思議の勝ちあり、とはこのことで、この逆風下でも2勝できたのだ受け止めるのは厳しいものがある。
先の産経記事によれば
<有権者は不記載事件を忘れていない。都知事選の当日に共同通信社が行った出口調査では、投票の際に不記載事件をどの程度重視したかという問いに対し「大いに重視した」と「ある程度重視した」が計70%に達した>
立憲民主党にとって次の総選挙は簡単な戦い
というから、裏金問題を起こした議員を中心に、選挙区での落選が危ぶまれる。立民の立場からしてみれば、裏金問題で国民が怒っている限り、次の総選挙は簡単な戦いと言える。
「石丸さんのような人をどんどん出したかったんですけども、維新の国会議員も自民党以上に、自民党みたいな政治集団になってしまっていて、領収書の黒塗りが必要だとか、飲みにケーションが政治で一番重要なんだとか、そうじゃないんですよ。石丸さんなんですよ。僕が維新をつくったときはまさに石丸さんのスタイルということで、本当にそういう政治をやりたかったんです。都知事選で(石丸氏が)無党派層を絶対惹きつけるなと思ったら、案の定こういう結果になった。維新も立憲も、まあ国民民主もそうですけども、よくよくこういう状況をみて、これからの国政選挙、衆議院選挙をやっていかないといけないと思う」
維新の停滞を理解していない橋下徹
橋下氏の指摘は概ね正しいのであろうが、大阪万博開催を決めただけで、実施については維新後進たちに放り出してしまったのは橋下氏であろう。維新をつくったのは橋下氏なのだが、現在維新が退潮している(自民の受け皿になるはずがなれなかった)のは、大阪万博のせいであり、維新の「飲み食いルール」が原因ではない。ここでは触れられていないが、教育費を全額税負担する政策をつくったのも橋下氏である。その流れで給食費も全額税負担化するのがいいような雰囲気が全国的にできてしまった。
先行研究によれば、学費は受益者である生徒(実態は生徒の親)がきちんと払ったほうが教育の質が上がる。また、高等教育への進学率が高まると少子化が進展することもわかっている。このすべてを全額税負担化することを「無償化・無料化」と称する政策は、いずれ失敗することが見えている時限爆弾のような政策だ。この政策が世代間格差の是正だと主張する人もいるが、それならば、子供のいない現役世代に恩恵がこない不平等な政策となる。
万博推進、教育費の全額税負担を信条とする橋下氏は現在でも吉村洋文大阪知事を筆頭に強い影響力を与える人物だ。橋下氏の影響力は今後も維持されるであろう。維新の中長期的な退潮傾向は続いてしまうかもしれない。
岸田政権には政権担当能力が全くない
立民に話を戻そう。先のイギリスの総選挙では、労働党が勝利したが、その戦術はなるべく突飛な公約を掲げずに、安全運転に徹し、政権担当能力があることを国民にアピールしていくというものだ。共産の協力関係が切れないのなら、政策面で「穏健な保守層」にアピールしていくことになろう。といっても、自民党とほぼ同じ政策を掲げ、裏金だけやらないという公約にすればいいのだから、戦略としては簡単だろう。
では、自民党はどう対抗すべきなのだろうか。裏金問題は国民に忘れてもらうしかないのはそうなのだが、問題はどう忘れてもらうかということだ。それは経済面でのアプローチしかない。
物価の変動を反映した働く人1人あたりの「実質賃金」が、過去最長の26か月連続で減少してしまった。この減少は、岸田政権の発足後しばらくしてから始まったものであり、放置し続けていることも含めて、完全に岸田政権の責任と言っていい。他方、2023年度の国の税収が72兆円と、想定より大きく上振れ、4年連続で過去最高を更新している。
このままでは、日本がぶっ壊れてしまう。
生活が一向に上向かないといった声は根強い
すでに決定されている防衛費大幅増に伴う所得税・法人税・タバコ税の増税に加え、6月からは1人あたり年間1000円の「森林環境税」が徴収されることになった。電気・ガス代の補助金制度は5月使用分で終了し、電気料金などの負担は6月分から増加する。冷房が欠かせない夏場を前に補助金を打ち切る感覚が理解できない。
今春闘で大企業の賃上げ率は5.58%(1次集計)と高水準を見せたが、日本商工会議所が6月5日に発表した調査結果を見ると、中小企業の正社員賃上げ率は3.62%と大幅に下回っている。小規模事業者は賃上げの恩恵を得られていない上、最近の物価上昇によって生活が一向に上向かないといった声は根強い。
小倉健一