国防の最前線に立つ「制服組」から、防衛政策の立案を担う官僚の「背広組」まで、200人を超す防衛省関係者が12日、一斉に処分された。特定秘密の違法な取り扱いに加え、架空の潜水訓練をでっち上げた手当の不正受給や、幹部によるパワハラも明らかになり、防衛省・自衛隊への信頼が大きく揺らぐ事態になった。
「見て見ぬふり」
海上自衛隊の潜水士による潜水手当の不正受給は、潜水艦救難艦「ちはや」と「ちよだ」で行われていた。処分された潜水士らは計74人。内訳は免職11人、停職48人、減給6人、訓戒など9人で、救難艦の搭乗員の多数が不正に関わった。
不正受給は、主に、架空の潜水訓練を実施したと装ったり、潜水時間を水増ししたりする手口で行われた。1人あたりの最高額は約200万円で、潜水時間を約1500時間水増ししていた。手当は潜水する深さに応じて金額が変わり、水深400メートルでは1時間1万円に上る。実際の水深より深く潜ったように偽って受け取ったケースもあった。
架空の訓練をでっち上げていたのは、「潜水員長」と呼ばれる潜水士のまとめ役だった。上司にあたる「潜水長」も不正を黙認した上、手当を受け取っていた。海自の聞き取りに対し、潜水士らは「先輩がやっていたので、ダメと思いながらも踏襲してしまった」などと説明。部隊で代々、不正の手口が引き継がれてきた可能性がある。
ただ、海自が調査したのは、昨年3月までの6年間だけだ。それ以前から部隊ぐるみで不正が常態化していたことをほのめかした潜水士もいたが、海自は「書類が残っていないので立証できなかった」とした。海自は、潜水業務に関わる他の隊員にまで調査対象を広げて調べているといい、不正受給はさらに広がる可能性がある。
ある防衛省幹部は「潜水士は特殊能力を要求されることもあり、仲間意識が強い。それが悪い方向に出てしまったのではないか」と話し、「これだけ大量の処分者が出て、任務に支障が出ないか心配だ」と懸念した。
海自ではこのほか、厚木航空基地(神奈川県)と東京業務隊(東京都)、対馬防備隊(長崎県)の各食堂で、無料支給対象でないにもかかわらず、代金を支払わずに給食を食べたとして計22人(降任2人、停職19人、戒告1人)が処分された。いずれも給食業務に関わっていた隊員で、最も多いケースは、昨年3月までの3年間で計921食(約30万円相当)に上った。
「不正に気付いたのに、見て見ぬふりをする『なあなあ』の体制が残っていたのではないか。不祥事の根底には海上自衛隊という組織体制にも大きな要因が存在している」。酒井良・海上幕僚長は12日の記者会見で、険しい表情で語った。
メールでパワハラ
一方、パワハラで懲戒処分された背広組3人のうち1人は、主要幹部の50歳代男性で、停職9日となった。
同省によると、この幹部は昨年7月~今年4月、部下に対し、「チンプンカンプンで理解不能」とのメールを同僚らも読める状態で送り、「役人としてイロハができていない」などと部下を 叱責しっせき した。部下本人だけでなく、同僚らからも、「精神的な苦痛を受けた」との訴えがあった。
残る2人は、いずれも課長級の50歳代男性で、減給となった。部下に対し、指示に従わなかったことを理由に懇親会への参加を見合わせるよう求めたり、威圧的な言動を繰り返したりしたという。
同省は、元陸自隊員の五ノ井里奈さんからの性被害の申告をきっかけにハラスメントの大規模調査を行い、昨年12月、パワハラやセクハラで245人を処分したと発表した。ある幹部は「『ハラスメントは一切許さない』という方針にかじを切ったにもかかわらず、中枢の背広組でパワハラが起きるとは……」とショックを受けた様子で語った。
「再発防止へ議論を」