暴力で政治家の生命を奪い、言論を封じる暗殺は民主主義への挑戦である。絶対に認められず、産経新聞は最大限の言葉で非難する。
改めて追悼の誠捧げる
にもかかわらず、テロリストの山上徹也被告を礼賛する言説が散見されることを深く憂慮する。テロリストの卑劣な犯行を肯定しては次なるテロを生む。決して許してはならない。
だが、安倍政治の価値はトランプ政権との関係にとどまらない。安倍氏が批判を恐れず、日本や世界にとって望ましい国際秩序、環境をつくろうと内外で能動的に働いた点にこそ真価があった。
「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を掲げ、国際秩序を乱す中国を抑止していく概念として国際社会に定着させた。自由貿易の擁護者として各国首脳から信頼された。
左派・リベラル勢力の猛反発を覚悟のうえで、安倍氏は憲法解釈を改め、安全保障関連法を制定し、限定的ながら集団的自衛権行使に道を開いた。日米は守り合う関係になり、同盟の絆と抑止力は格段に高まった。安倍氏の決断なしでは、台湾有事の危機や北朝鮮の核・ミサイル問題を前に日本は立ち往生していただろう。それは日本経済にも打撃を与えたに違いない。
岸田文雄首相は、ウクライナ侵略を機に転換した対露政策を除き、安倍氏の外交安保路線を受け継ぎ、前進を図っている。国家安保戦略など安保3文書の改定や防衛力の抜本的強化などがそれに当たる。これは高く評価されて然(しか)るべきだ。
一方で、岸田政権は支持率低迷の苦境にあえいでいる。安倍氏暗殺に端を発した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題や、安倍派(清和政策研究会)などのパーティー収入不記載事件はその一因だ。だが根深い原因はほかにある。
それは、岸田首相や自民が保守の矜持(きょうじ)を失ったのではないかと見られていることと、左派・リベラル勢力の反発が予想されても現代日本にとり重要な課題を確実に前進させる姿を示していないことの2点である。
2つの理由で低迷した
LGBTなど性的少数者への理解増進法は土壇場で問題点の修正が施されたとはいえ、自民が安易に推進したことで国民の不安を増幅させた。女性だと自認する男性が女性専用スペースに入ることを正当化するのに用いられかねない危険がある。