SNS詐欺に関する社説・コラム(2024年7月7日・8月2日)

SNS型詐欺 甘いもうけ話などない(2024年8月3日『東京新聞』-「社説」)
 
 インターネット交流サイト(SNS)を悪用した投資詐欺の被害が急増している。総務省有識者会議はSNSに政府の関与を強める対策案を示したが、行き過ぎた介入は憲法が保障する表現の自由を損なう。被害の防止と公的な関与の両立に知恵を絞りたい。
 大阪府警は7月、SNS型投資詐欺を働いた2集団に属する90人を詐欺の疑いで逮捕した。被害額は約10億円に上るとみられる。
 警視庁も6月、同様の集団で現金引き出し役の5人を逮捕した。被害額は5億円以上という。
 SNS型投資詐欺は、ネット上に広告を仕掛け、連絡してきた人を通信アプリの「LINE(ライン)」に誘導。架空の投資話を持ちかけ、送金させる手口だ。
 ネット詐欺の約8割を占め、著名人を無断で「広告塔」とする事例も多い。特殊詐欺と違い、素性が分からず、提訴も難しい。
 警察庁によると昨年7月から急増。昨年の被害総額は全国で278億円で、今年は6月までに506億円に達した。先の摘発例は氷山の一角だ。
 中傷目的のネット投稿は先の通常国会で成立した改正プロバイダー責任制限法でSNSの事業者に対応が義務付けられたが、偽情報や偽広告などへの対応は有識者会議で検討している段階だ。
 先日公表された提言案では、政府がX(旧ツイッター)などを運営するSNS運営大手に対し、偽情報や偽広告の迅速な削除や掲載停止を促す制度の整備やネット広告の審査強化を求めている。
 フェイスブックなどを運営する米メタは4月、声明で「膨大な数の広告を審査することは課題も伴う」と消極的な姿勢を示したが、もはやSNSは公共インフラとなり、運営事業者は膨大な広告で巨額の収益を上げている。無責任な対応は断じて許されない。
 欧州連合EU)は事業者に偽情報の削除を義務付け、違反には制裁金も科している。
 有識者会議が政府の介入を促したのは、SNS運営大手の自主性には委ねられないとの判断からだが、公権力の過剰な介入には表現の自由を損なう懸念もある。日本で法制化する際には恣意(しい)的な運用を防ぐ枠組みが不可欠だ。
 詐欺被害拡大の背景には官民挙げての投資ブームがあるが、甘いもうけ話などあるはずがない。SNS利用者にも注意を促したい。

SNS投資詐欺 手軽なもうけ話に潜む危険(2024年8月2日『読売新聞』-「社説」)

 SNSを悪用して、金をだまし取ろうとする犯罪グループが横行している。簡単にもうかるといった投資話には耳を貸さないことが大切だ。
 警察庁によると、SNSを通じて投資話を持ちかける「SNS型投資詐欺」が今年1~6月、全国で3570件確認された。前年の6倍の規模で、被害額は7倍超の506億円に上る。
 投資家や著名人になりすまして信用させる手口も目立っている。被害者の7割は50~70歳代で、老後の資金などが狙われた。
 多くはフェイスブックの広告からLINEに誘導される。犯人側と直接、投資に関するやり取りを重ね、最終的に投資金や手数料の名目で金銭をだまし取られる。
 犯人側にとって、SNSは正体を隠して相手に接触できる便利なツールだ。最近はインターネット上での商取引に慣れた人が多く、見知らぬ相手への送金に抵抗感が薄いことも被害拡大の要因ではないか。事態は深刻である。
 「絶対にもうかる」「あなただけに教えます」などの言葉が出てきた時は、詐欺を疑うべきだ。うまいもうけ話など存在しないことを肝に銘じてほしい。
 大阪を拠点にした2グループのSNS投資詐欺では、これまでに90人以上が逮捕されている。容疑者の大半は20歳代の若者だ。知人から「いい仕事がある」などと誘われて、グループに加わったケースが多かったという。
 ビルの一室に集まり、スマートフォンを使って、投資に関心のありそうな人にメッセージを送り続けていた。こうした役割は「打ち子」と呼ばれる。
 犯罪グループにとって「打ち子」は「捨て駒」にすぎない。詐欺は10年以下の懲役という重い罪である。わずかな報酬につられて、今後の人生を台無しにするのでは、割に合わないだろう。
 警察は、SNSでつながって離合集散を繰り返す犯罪集団を「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)と呼び、警戒を強めている。従来の暴力団などとは異なる新しいタイプの組織だ。
 政府は、フェイスブックを運営するメタやLINEヤフーなどのSNS事業者に、広告審査の強化を求める詐欺被害防止策を打ち出している。事業者の責任は重大だ。対策の実効性が問われる。
 手口を巧妙化させているトクリュウに対処するには、警察やSNS事業者だけでなく、口座の開設や送金に関わる金融機関などとの連携も欠かせない。
 
急増するSNS詐欺 放置する事業者許されぬ(2024年7月7日『毎日新聞』-「社説」)
キャプチャ
SNS型投資詐欺などをテーマにした自民党本部での勉強会を終え、取材に応じる衣料品通販ZOZO(ゾゾ)創業者の前沢友作氏(中央)。詐欺広告で画像などが悪用され、米メタを提訴した=東京都千代田区で2024年4月10日、北山夏帆撮影
 ネット交流サービス(SNS)の広告で投資を呼びかけ、お金をだまし取る詐欺行為が横行している。巨大IT企業には、根絶に向けた対策を講じる責務がある。
 動画や画像で著名人や投資家をかたった広告からLINE(ライン)などのアプリに誘導し、投資話を持ちかける。人工知能(AI)で作成した偽動画は、本物との区別が難しい。ネット上の架空口座で利益が出ているように見せかけて何度も振り込ませ、4億円超をだまし取ったケースもある。
 SNS型投資詐欺と呼ばれ、昨年後半から急増している。今年1~5月は3049件、被害額約430億円と昨年の総額を超えた。
 政府は6月、フェイスブックを運営する米メタなどに対し、広告の審査基準の策定や公表、広告主の本人確認強化などを求めた。ただ、要請に強制力はない。
 事業者は、責任を回避するかのような予防線を張っている。
 メタは「世界中の膨大な広告を審査することには課題も伴う」との声明を出した。不適切な広告を削除するシステムの改善には限界もあると説明する。
 だが、どこまで本気になって対策を講じているか、外部からはわからない。広告のなりすまし動画に使われた起業家が、具体的な詐欺対策の公表を求めてメタを提訴する事態になっている。
 プラットフォームビジネスは広告掲載で利益を得る構造である。事業の拡大に応じ、コンテンツの品質管理を強化するのは当然だ。
 巨大ITの技術と資金は、AIで作成した動画の検知といった被害防止策に投じるべきである。
 消費者にも金融の知識が求められるとはいえ、何より事業者の責任が大きい。競合サービスが少ない寡占状態にあぐらをかき、問題を放置するなら容認できない。
 政府は関連法の改正を視野に、SNS事業者などに有害情報への対処を求める規制強化を検討している。投稿の削除は言論や表現の自由に抵触しかねず、慎重な議論が求められる。ただ、営利目的の広告はそれとは区別すべきだ。
 ネットを安心して使うために、実効性のある対策が欠かせない。被害がこれ以上拡大することのないよう、政府は巨大IT企業への監視を強めなければならない。