6月21日に記者会見を開いた野川明輝・鹿児島県警本部長は、本田尚志被告の訴える“隠蔽疑惑”について完全に否定した(写真・共同通信)
「闇をあばいてください」
1通の封筒がいま、鹿児島県警を揺るがしている。
6月21日、国家公務員法違反の罪で起訴されたのは、鹿児島県警前生活安全部長の本田尚志(たかし)被告だ。
本田被告が小笠原氏に送付したとされる告発文
「3月28日に本田被告は、札幌在住のライター・小笠原淳氏に、3件の事件が県警内部で隠蔽されているという趣旨の告発文を送りました。そこで小笠原氏は、鹿児島県警の抱える問題について何度も報じていた、福岡のネットメディア『ハンター』に、告発文をPDFで転送したのです。すると4月8日、県警はたまたま別件で『ハンター』の代表の自宅から押収したパソコンから、このPDFを発見。『警察の内部文書を外部に漏えいした』として、差出人である本田被告を5月31日に逮捕しました」(社会部記者)
本田被告が訴える“隠蔽事件”のうちの1件は、2023年12月に発生した枕崎署員による盗撮行為だ。本田被告によると、枕崎市内の公衆トイレで、女性をスマートフォンで撮影したとされる署員について、本田被告が県警トップの野川明輝本部長に捜査するよう進言したところ、野川本部長は「泳がせよう」とかばい、本部長指揮の印鑑を押さなかったという。しかし結局、告発文の存在が発覚した後に、県警が署員を逮捕したのだ。
告発文を受け取った小笠原氏は憤りを隠せない。
「そもそも、県警を批判していたメディアに対し、平気で家宅捜索に入るということがおかしいでしょう。さらに、別の事件の捜査の過程で入手したにもかかわらず、今回の告発文を見つけて事件化する。これは厳密にいえば『目的外使用』ですよ」
さらに県警は、小笠原氏に対し、告発文の原本の“返還”を求めてきたという。
「重要な証拠品だからというのですが、なぜ“返還”が必要なのか問い詰めると『ただのお願いです』と白状しました。もちろん断わりましたが、そもそも証拠品なら逮捕前に確保すべきですし、あまりに杜撰です」(小笠原氏)
「警察庁や鹿児島県警がいちばん困るのは、本田さんが覚悟を決めて、いま出ている不祥事だけではなく、自分が見聞きしてきた警察の恥部をすべて暴露すること。とくに本田さんは、県警の最高幹部のひとりだったので、警察の組織的な裏金作りについて知っている。だから、『ここで口をつぐまないと、次々と余罪を見つけて刑務所へ叩き込む』と脅したり『本部長は更迭して、あなたには最高の天下り先を用意するから納得してほしい』と、なだめすかしたりしているはずです」
実際に、2005年に現職警察官として、初めて愛媛県警の裏金問題を告発した仙波敏郎氏は、当時をこう振り返る。
「私が裏金問題について会見する、という情報が漏れてから、すごかったですよ。警察に徹底的に尾行され、飲食店で食事をすると、すぐにその後『酒は飲んでたか、飲酒運転は?』と逮捕する理由を探して、店に聞き込みに来たそうです。会見前日には、上司が『残りのキャリアは、好きなところに赴任させるから、会見をやめろ』と条件を出してきた。それも断わると『どうなっても知らん』と言われました。このままだと、本当に口を封じるために不当に逮捕されると思い、その日の夜は、パチンコ店の駐車場で警察の尾行をまき、ホテルに宿泊し、逮捕を逃れました。命がけでしたね」
本田被告は21日に保釈され、今後は“隠蔽疑惑”が法廷で争われることになる。幸い、多くの“味方”も登場している。本田被告の中学校時代の同級生はこう証言する。
「彼は、父も息子も鹿児島県警の警察官という筋金入り。昔から正義感あふれる好青年でした。真面目なので本部長のことが許せなかったのでしょう。高校の同級生を中心に、集まって支援しようという動きが始まるかもしれません」
前出の小笠原氏は、鹿児島県警の体質をこう語る。
「私の実感からしても、鹿児島県警の隠蔽体質は異常すぎるんですよ。ほかの県警では普通に公表しているような公文書についてすら『あるかどうか答えられない』と拒否しています。そもそも『ハンター』にガサ入れしたのも、3年前に警察官の息子が起こした強制性交事件の隠蔽疑惑が原因ですからね」
“市民の味方”でないことは間違いない。
週刊FLASH 2024年7月9日号