函館のいかめしも鹿児島のカツオたたきも…全国の「できたて」を東京で味わえる、新幹線輸送の未来は(2024年6月6日『東京新聞』) 

 北は北海道、南は鹿児島から、新幹線で届いたばかりの各地の特産品を―。先月17、18日、JR東京駅改札内の「グランスタ東京」で、JR東日本や東海などJR旅客6社が「旬食フェア」を開催し、新幹線による荷物輸送をPRした。その狙いと反響は?
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JR東京駅の22番線で新幹線車両から降ろされる北海道の特産品
◆名古屋の人気スイーツは1時間半で「完売」
 「かにめし 新函館北斗7時38分発 12時8分着」「カツオたたき 鹿児島中央7時42分発 16時48分着」…。17日、会場に設けられた「商品発着時刻表」には、60品目に及ぶ特産品の到着時刻が並んでいた。列車がホームに到着次第、車内販売の準備スペースなどから段ボール箱が次々と降ろされ、会場へ運ばれた。
 午前11時半の販売開始に先立ち、7時から配り始めた名古屋の人気スイーツの整理券120枚は8時半前に全てさばけたという。
 函館の「いかめし」などを買った神奈川県平塚市の男性(30)は「新鮮なものが手に入る」と満足そう。「時代に合った取り組みなので発展させてほしい」と期待を寄せた。たまたま通りがかった茨城県の40代の女性は三重県の和菓子を購入し、「ラッキーでした」。X(旧ツイッター)の情報を見て来たという北区の塾講師、高田吾郎さん(56)は「乗客の少ない新幹線の路線は荷物輸送をやった方がいいのではないか」と話した。
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(左)会場には各地から運ばれてくる特産品の発着時刻表が設置されていた
(右)新幹線で届いたばかりの特産品が並べられた会場=いずれもJR東京駅で
(左)会場には各地から運ばれてくる特産品の発着時刻表が設置されていた (右)新幹線で届いたばかりの特産品が並べられた会場=いずれもJR東京駅で
◆業務用スペースなど活用 1編成で40箱
 新幹線による荷物輸送は2017年にJR東日本が山形、新潟、長野などから野菜や果物を東京へ運んだのを皮切りに、JR西日本や北海道、九州も参入。JR東海が今年4月から医療関係品や生鮮食品などの輸送を本格的に始め、全国の輸送網がつながった。
 業務用スペースなどに積み込むことで、「1編成で約40箱の荷物が運べます」とJR東日本の堤口(つつみぐち)貴子さん。実際の輸送量は「全体のキャパシティーに比べれば、ほんのわずか」。荷主側の「この時間に」「このエリアへ」といったニーズに合わせた輸送をいかに展開するかが課題だそうだ。
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◆貨物の領域に踏み込み?
 JR東日本は昨年、客室も活用して1編成で最大約700箱を運ぶ実証実験を実施。トラック運転手の労働時間規制強化を受け、「(トラックから鉄道へ輸送手段を切り替える)モーダルシフトの受け皿に」(JR九州)などと、JR旅客各社は事業拡大を視野に入れる。
 1987年の国鉄分割民営化は、旅客輸送をJR東日本など旅客6社に引き継ぐ一方、貨物輸送は全国一元でJR貨物が担うと規定。しかし、旅客会社が新幹線などで運ぶ「小規模な荷物」と、JR貨物の手がける「重厚長大な貨物」との線引きは法律上、明確でなく、旅客側が貨物の領域へ徐々に踏み込んでいるようにも見える。
 国土交通省鉄道局の担当者は「(コロナ禍などで)人が乗らないのであれば…と旅客会社が進めた。現状では新幹線車両を改造してまでもうかるとは考えにくい」と冷静に受け止める。
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(左)新幹線荷物輸送について語るJR東日本の堤口貴子さん=JR東京駅で (右)犬飼新・JR貨物社長=渋谷区で
JR貨物社長「心穏やかではないが…すみ分けできている」
 フェアの前日、記者会見で犬飼新(しん)・JR貨物社長に見解を尋ねると、「心穏やかでないのが正直なところ」と語る一方、「現時点では今ある車両の有効活用という範囲。すみ分けはできている」「当社のノウハウを生かせる部分があるのなら、こちらから働きかけて何らかの形で携わっていければ」と先を見据えた。
 新幹線による大規模な貨物輸送は、国鉄時代から温められてきた歴史的構想。その実現には、旅客・貨物双方の協力がカギになる。
文と写真・嶋田昭浩