井田寛子さん、斉田季実治さんも…「いま声を上げないと」語った決意 気象予報士ら44人が気候変動で共同声明(2024年6月6日『東京新聞』)

 テレビ番組で活躍する気象予報士ら有志44人は5日、「気候変動問題の解決に向けて命と未来をつなぐ行動を加速させる」とする共同声明を発表した。天気予報の番組などで気候変動を伝える時間の拡大や伝え方の工夫に努める。

 このうち8人が国連大学本部(渋谷区)で記者会見し、問題解決に向けて「今日が第一歩」などと話した。この日は、国連が定める世界環境デーだった。

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気候危機の解決を目指す共同声明を発表した気象予報士ら=東京都渋谷区の国連大学本部で

 声明は冒頭で「気象予報士気象キャスターの多くは気候変動に危機感を持っています」と強調。近年の研究で、猛暑や豪雨の深刻化に地球温暖化が影響していることが分かってきたことに触れ、「気象と気候変動を関連づけた発信」に取り組み、人々の行動を変化させていくことに貢献する、とした。

◆アンケートに回答した130人のほぼ全員が「危機感持っている」

 声明の呼びかけ人や賛同人8人は、1人ずつマイクを握った。

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賛同人の斉田季実治さん

 NHKの報道番組などで活動する気象予報士の斉田季実治(きみはる)さんは「天気予報は常に未来に目を向けて発信している。その中で、より先の未来、気候変動も伝えていくことが、多くの方に理解していただくためには大事だと考えています」と語った。

 呼びかけ人の気象予報士でキャスターの井田寛子さんは、昨夏の記録的な暑さを「1人の親としても危機感を感じました」と振り返り、「いま声を上げないと、変わるきっかけがないんじゃないか」と行動に移した理由を説明した。

 声明の発表に先立ち、4~5月に全国の気象予報士気象キャスターに募ったアンケートでは、回答した130人のほぼ全員が「気候変動の危機感を感じている」と答えた。

 100人以上が「気象情報の中で気候変動をもっと伝えるべきだ」と考えている一方、過去に伝えたことがあるのは80人より少なく、気候変動の情報発信が不十分な現状も浮かんだ。

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共同声明の呼びかけ人としてあいさつする井田寛子さん㊨と正木明さん

 共同声明の呼びかけ人たちは今後、メディア関係者との連携を深めて発信の機会増加を目指すほか、気候の専門家を招いた勉強会などで気象予報士らの知識向上も図る。(福岡範行)

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井田寛子さん

 

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「本当はとんでもない数字」「空が変わってきている」。記者会見に参加した気象予報士たちは1人ずつ、それぞれの思いを語りました。残る6人全員の言葉を紹介します。

◆賛同人の森田正光さん「床屋さんに行ったら隣で…」

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賛同人の森田正光さん

床屋さんに行ったら隣で「今年は暑いらしいよ」「毎年、言っているし」と話していた。話が深くなるかなと思ったら、そのまま終わって。

暑くなるということは知っているし、温暖化ってことは知っているけれど、それで終わっちゃっている。

(猛暑や豪雨などが起きたときに温暖化の影響を分析する)「イベント・アトリビューション」が最も重要なキーワードだと思っています。今回の猛暑は、温暖化がどのくらいの影響を与えたのか。定量的なことが積み重ねられないと本当のところは言えないし、大まかなところで分かった気になる。

CO2をどれだけ出したらどうなるかは研究が進んでいくでしょうし、われわれがそれを踏まえて、発信できたらいいなと思っています。

◆賛同人の山神明理さん「子どもたちは一生懸命」

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賛同人の山神明理さん

小学校で防災教育をやらせてもらうことが多いです。

子どもたちは気候変動のことも一生懸命学んで、地域の人のために、世界の人のために何ができるかを一生懸命、考えているんですね。

大人は学ぶ機会がなかったなと感じていて、日々の気象情報の中で意識付けできる情報をお届けできればと思っています。

◆賛同人の今村涼子さん「1時間に100ミリでも『またか』」

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賛同人の今村涼子さん

毎年、どこどこで40℃を超えましたとか、1時間に100ミリ以上の猛烈な雨を観測しましたという機会が増えているんですね。

40℃を超えても驚かなくなってきているんですよ。1時間に100ミリでも「またか」という状態になってきている。

本当はとんでもない数字なのに、慣れてきてしまっている状況なんですが、危険な気象状況にあるんだよ、ということをいま一度、確認してもらえる発信をしていきたいと思います。

◆賛同人の水越祐一さん「異常事態が日常に」

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賛同人の水越祐一さん

2004年に台風23号で非常に大きな被害が出たのが衝撃的で、ショックを受けました。

大きな災害が今では毎年、当たり前のように起きている。異常事態が日常になっていることに危機感を感じています。

いち気象予報士として感じている危機感を多くの方にも共有いただけるような発信をしていけたらと思っています。

◆賛同人の名倉直美さん「関東や東北でも大きな被害」

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賛同人の名倉直美さん

小学校向けの出前授業や、子ども向けのイベントなどでお話しするんですが、私は福岡県出身で、小学生のときに、いわゆるリンゴ台風の被害に遭いました。

そのときは強い台風は九州沖縄しかこないという認識だったんです。

けれど、大人になったときには温暖化の影響で九州沖縄だけではなく、近畿や関東、東北など台風の大きな被害が出る地域が広がってきています。

私が小学校のときには考えられなかった状況が、もう既に起きています。

なので、今から行動しましょうと伝えています。

◆呼びかけ人の正木明さん「けじめを付けたいと思っていた」

気象キャスターとしては今、35年目。私の場合は関西の空をずっと見ている仕事にしています。35年間、同じ関西の空を見ていると、昔と今と、変わってきてしまっています。

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共同声明を読み上げた、呼びかけ人の正木明さん

もう20年前になりますが、子どもができた段階で、未来がどうなるのか非常に危惧しました。

気候変動の予想のまま行きますと、いろんなところに影響が出始めていて、頑張らなくてもニュースになってきてしまうんですね。その前に、しっかりと気象予報士気象キャスターとして発信していきますよと、どこかでけじめを付けたいと思っていました。

たくさんのお仲間を得て、(共同声明を)することができました。今日はスタート。ネットワークをしっかりと持ちながら、気候変動の報道を充実したものにしたいと思います。


私たち、気象予報士気象キャスターは気候変動の解決に向けて、その架け橋となりたいと思い、立ち上がりました。2024年6月5日“世界環境デー”に合わせ、全国の気象予報士気象キャスターにて「共同声明」を国連大学で発表。声明に賛同する44名の気象予報士気象キャスターの皆さまとメディアに携わる皆さまと連帯の意を表明いたしました。

■ 【気候危機に関する気象キャスター共同声明】記者会見

  ~天気予報の枠内外で、今こそ気象キャスターが気候危機解決への架け橋に~
■ 日時:2024年6月5日(水) 13:30〜14:30
■ 場所:ハイブリッド開催@国連大学本部ビル 1F アネックススペース
■ 主催:気象キャスター呼びかけ人
■ 協力:国連広報センター/国連大学気象キャスターネットワーク/一般社団法人Media is Hope
【気候危機に関する気象予報士​・​気象キャスター共同声明】全文を掲載
【気候危機に関する気象予報士​・​気象キャスター共同声明】
「日常的な気象と気候変動を関連づけた発信」で命と未来を繋ぐ。
~今こそ気象予報士​・気象キャスターが気候危機解決への架け橋に~
【共同声明メッセージ】
 気象予報士気象キャスターの多くは気候変動に危機感を持っています。天気予報の時間枠に限らず、私たちは「日常的な気象と気候変動を関連付けた発信」を目指し、気候変動問題解決に向けた命と未来を繋ぐ行動を加速させます。専門家や各メディアとの連携、協力を強化し、気象予報士気象キャスターが気候危機解決への架け橋になります。
■ 問題意識の背景、科学的根拠を示すことが可能になった現在
 地球温暖化による異常気象は、猛暑、豪雨、洪水、干ばつなど、既に世界各地で甚大な被害をもたらしており、私たちの食や農、生活を脅かす深刻な問題となっている。IPCC第6次評価報告書*1では「人間の影響が温暖化させてきたことは疑う余地がない」と明記され、極端な気象に対して人間活動の影響が高い確信度で評価された。近年、気象研究所などイベント・アトリビューション*2の研究により、特定の気象や事象と気候変動の因果関係が明らかにされるようになった。
■ 情報を届けるメディアの重要性
 米イエール大学の調査*3によると、世界のおよそ70%の人々が、気候変動を解決する方法について情報を求めており、日本では気候変動が「非常に重要/極めて重要」と答えた人は55%。一方「重要ではない」と答えた人はわずか12%だった。別の調査*4では「脱炭素」に向けて行動している人は33.6%に留まり、関心はあるが行動に至っていない状態が続いている。また、内閣府「気候変動に関する世論調査」2023*5では気候変動の影響に関する情報について、9割以上の人がテレビやラジオから情報を取得しており、メディアで正しく情報を伝えることの重要性が伺える。
気象予報士気象キャスターが伝えることの意義と課題
 気象予報士気象キャスターは視聴者/読者にとって身近な存在であり、日常的に情報を伝えられる立場にある。「誰に呼びかけられると気候危機への関心が高まるか」との調査*6で、科学者や専門機関に次いで気象キャスターの評価が高く、広く社会に共有する重要な役割を担っている。
 全国で活躍する気象予報士気象キャスター130人にアンケートを行ったところ「90%以上の人が気象情報の中で気候変動に対する危機感を持っている」「80%以上の人が気象情報の中で気候変動についてもっと伝えるべきだ」と答えた。一方で、気候変動を伝える上で難しい理由については「放送時間が限られる」「専門的で難しい」「視聴者/読者や社内の関心がない」等の課題も見えてきた。
■ メディアとの連携など今後の取り組み
国連広報センターとメディアによる気候キャンペーン「1.5°Cの約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」は3年目に入り、全国各地のテレビ/ラジオ/新聞/雑誌/オンラインメディアなど160社が参画している。気候変動の自分事化と解決に向けた発信をしようとするメディアの動きに気象予報士気象キャスターも賛同・連帯する。今後、放送枠の確保など課題解決のために、関心のあるメディア関係者からの提案を積極的に受け入れ、現場やニュースルーム全体での理解を広げる。また、国内外の専門家と情報連携し、共に「気象と気候変動を関連づけた発信」に取り組み、一般の理解を深め気候危機の自分事化/行動変容に貢献する。
2024年6月5日 気象予報士気象キャスター呼びかけ人、賛同人一同
呼びかけ人・賛同人:
正木 明    朝日放送おはよう朝日です
 
賛同人:
近藤 肇    北海道放送 ウェザーセンター
児玉 晃    北海道放送 ウェザーセンター
伊藤 真梨子  北海道放送 ウェザーセンター
菅井 貴子   北海道文化放送
今野 桂吾   東北放送報道制作局tbc気象台 
斉田 季実治  NHK「ニュースウオッチ9」出演中
片山 美紀   NHK首都圏ネットワーク」出演中
伊藤 みゆき  NHKラジオセンター
福田 寛之   NHKラジオセンター
寺川 奈津美  NHKラジオセンター
南 利幸    南気象予報士事務所 代表取締役
広瀬 駿    南気象予報士事務所
渕岡 友美   南気象予報士事務所
山神 明理   日本テレビ「Day Day.」出演中
服部 由佳   日本テレビ「日テレNEWS24」「ストレイトニュース」
森田 正光   TBS「Nスタ」出演中
増田 雅昭   TBS「THE TIME,」出演中
國本 未華   TBS「Nスタ」出演中
天達 武史   フジテレビ「めざまし8」出演中
今村 涼子   テレビ朝日スーパーJチャンネル」出演中
河津 真人   ウェザーマップ
東海林 克江  J-WAVE
久能木 百香  気象予報士
寺尾 直樹   NHK名古屋「まるっと!」
桜沢 信司   CBCテレビ「チャント!」
福島 智之   東海テレビ「ニュースONE」
吉田 ジョージ 東海テレビ「スイッチ!」
長村 真里   北陸朝日放送「ふむふむ」
片平 敦    関西テレビ「newsランナー」
塩見 泰子   南気象予報士事務所
塚原 美緒   広島テレビ
岩永 哲    中国放送ウェザーセンター
中島 望    NHK岡山放送局
石川 博康   山陰放送
津村 研太   愛媛朝日テレビ 
吉竹 顕彰   NHK福岡ニュース「ロクいち!福岡」出演中
浅川 かがり  鹿児島放送
山崎 秀樹   日本気象予報士会
合計44名
 
※個人連名の声明であり、媒体や所属団体は本声明に関係するものではありません。