風水害に備える 「気象と防災の日」制定を 地球沸騰に向き合う契機に(2024年6月1日『産経新聞』-「主張」)

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強い雨が降る名古屋駅前を傘を差して歩く人たち
 5月31日未明に温帯低気圧になった台風1号は、日本の南の海上を北東方向に進みながら九州から関東にかけての広い範囲に大雨と強風をもたらした。家屋の浸水や倒木により、大きな被害が出た地域もある。
 すでに梅雨入りした沖縄、奄美地方に続き、日本列島は雨季を迎える。梅雨のない北海道を含め、秋の台風シーズンまでの数カ月は、集中豪雨や台風による災害が起きやすい。
 河川の氾濫、土砂災害、高潮や都市型の水害など地域ごとの災害リスクを改めて確認し、風水害から命を守るための備えを徹底したい。
訓練の普及と定着図れ
 6月1日は「気象記念日」である。明治8(1875)年のこの日に東京気象台で気象と地震の観測が始まった。だが、気象庁職員ら一部の関係者以外には気象記念日に関心を持つ人は多くはないだろう。国民全体が気象に関心を寄せ、防災に取り組む有意義な日にすべきだ。
「気象と防災の日」への改称を提言する。
 防災の2文字が入るだけでも国民の関心は高まるだろう。9月1日と対になる国民的な防災の日として、「6・1」を定着させたい。
 地球温暖化の影響とされる気象の激甚化で、風水害をはじめとする気象災害の頻度と激しさを増す傾向が、近年は顕著になっている。国民一人一人が災害に備えるだけでなく、地域、自治体、政府が連携して命を守り被害を軽減する防災・減災に取り組む必要がある。
 関東大震災(大正12年)が起きた9月1日の「防災の日」は地震防災に軸足が置かれてきた。学校や職場、地域で避難訓練が実施され、多くの自治体と政府、関係機関が連携する大規模な訓練も行われる。
 一方、集中豪雨や台風を想定した訓練は、あまり実施されていない。近年は同じ地域に猛烈な雨を長く降らせる線状降水帯が頻繁に発生し、西日本豪雨(平成30年)をはじめ、多くの犠牲者を出す大規模な水害が毎年のように発生している。
 西日本豪雨では災害前から水害を想定した訓練に取り組み、全住民の避難に繫(つな)げた地域がある。命を守るための備えのなかでも、最も実効性が高いのは住民が参加する訓練である。訓練を通して高齢者、障害者のサポートや安全確保などの課題を把握でき、災害時の対応力が養われる。
「救える命」は救いたい
 「気象と防災の日」の制定を求める最も大きな理由は、多くの地域、自治体が風水害を想定した訓練を実施する契機とすることにある。
 たとえば今年、訓練を行えばこの夏秋の豪雨や台風で「救える命」があるだろう。「6・1」の訓練参加が国民に定着すれば50年、100年後の世代の命も救える可能性がある。多岐にわたる防災施策のなかでも訓練の即効性と持続性は高い。
 「気象と防災の日」の制定を提言するもう一つの理由は、地球規模の気候変動について多くの国民が学び、考える契機になるからだ。そのために「気象防災」ではなく「気象と防災」の日とした。
 国連の事務総長は「地球沸騰の時代が来た」と警鐘を鳴らしたが、気候変動への対策と関心は温室効果ガスの排出削減に偏っている。排出量の実質ゼロを達成することが温暖化対策のゴールであり、温暖化による激甚気象も収まるかのような誤解を生じさせてはいないか。
 地球温暖化に急ブレーキはかけられない。温室効果ガスの排出を止めても激甚気象は収まらない。西日本豪雨の被災地は、猛烈な暑さに見舞われた。命を脅かすレベルの暑さは異例ではなくなり、今夏も猛暑が予想される。温暖化抑止策と並行して「地球沸騰の時代」を生き抜くための対応策の強化に本腰を入れなければならない。
激甚化する風水害や猛暑から命を守る取り組みは、国民一人一人が気候変動に向き合っていく第一歩となる。