写真:LIMO [リーモ]
厚生労働省は2024年5月9日、毎月勤労統計調査の中で3月の実質賃金を公表。
1人あたりの実質賃金は前年比2.5%減で、2年にわたりマイナスが続いています。物価上昇が止まらない中で、「老後の備え」に不安を感じる方もいるでしょう。
【円グラフ】60歳代世帯の「貯蓄分布」と平均・中央値はいくら?厚生年金や国民年金で十分なのか
では、今のシニアは実際にどれほどの貯蓄を保有できているのでしょうか。一昔前に話題となった「老後2000万円問題」をヒントに、2000万円台の割合をさぐります。
記事の後半では、老後の収入の柱となる厚生年金や国民年金の平均額も確認しましょう。
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【60歳代の二人以上世帯】貯蓄2000万円台は何パーセントいる?
世帯構成によっても貯蓄事情は異なるため、今回は60歳代のうち「二人以上世帯」にフォーカスをあて、「貯蓄2000万円~3000万円未満」の人はどれくらいいるのか確認します。
●【60歳代の二人以上世帯】の貯蓄2000万円~3000万円未満の割合
・9.5%
●【60歳代の二人以上世帯】の貯蓄2000万円以上の割合
・30.0%
●【60歳代の二人以上世帯の貯蓄額】平均と中央値
・平均:2026万円
・中央値:700万円
貯蓄2000万円台(2000万円~3000万円未満)は9.5%ですが、貯蓄2000万円以上でみると30.0%となりました。
一方で、貯蓄ゼロという世帯は21.0%のようです。こうした貯蓄ゼロ世帯を抜くと、貯蓄平均はどれほどになるのでしょうか。
【60歳代の二人以上世帯】貯蓄保有世帯のみだと貯蓄平均はいくら?中央値も
同調査より貯蓄保有世帯のみの貯蓄額について見ていきます。
●【60歳代の二人以上世帯】の貯蓄2000万円~3000万円未満の割合
・12.0%
●【60歳代の二人以上世帯】の貯蓄2000万円以上の割合
・38.0%
●【60歳代の二人以上世帯の貯蓄額】平均と中央値
・平均:2588万円
・中央値:1200万円
貯蓄保有世帯のみの貯蓄額をみると、貯蓄2000万円以上は38.0%まであがりました。平均は2588万円。実態を表しやすいと言われる中央値は1200万円のようです。
しかし、物価高・実質賃金減少の中で、ここまで資産形成できる余裕がないという方もいるでしょう。そこで頼りにしたいのが公的年金です。
今のシニアは、厚生年金や国民年金を平均でどれほど受給しているのでしょうか。
60歳代は「厚生年金や国民年金」をいくら受給しているの?
厚生労働省によると、2024年度の年金額の例は以下のとおりです。
●2024年度の年金額の例(月額)
・国民年金(満額):6万8000円(+1750円)
・厚生年金※:23万483円(+6001円)
少しややこしいのですが、公表された金額のうち「国民年金」に関しては、1人あたりの満額になっています。
一方、「厚生年金」に関しては夫婦2人分の合計額(国民年金を含む金額)とのこと。なお、これは「夫が平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43万9000円)で40年間就業し、夫婦2人とも国民年金を満額受給できた」場合のモデルケースです。
あてはまらない世帯も多いと思いますので、もう一つのデータとして平均受給額も確認しておきましょう。
●60歳代の厚生年金受給額(平均月額)
・60歳:9万4853円
・61歳:9万1675円
・62歳:6万1942円
・63歳:6万4514円
・64歳:7万9536円
・65歳:14万3504円
・66歳:14万6891円
・67歳:14万5757円
・68歳:14万3898円
・69歳:14万1881円
※国民年金を含む
●60歳代の国民年金受給額(平均月額)
・60歳:4万2616円
・61歳:4万1420円
・62歳:4万3513円
・63歳:4万3711円
・64歳:4万4352円
・65歳:5万8070円
・66歳:5万8012円
・67歳:5万7924円
・68歳:5万7722円
・69歳:5万7515円
本来の受給開始年齢である65歳以降を見ると、厚生年金の平均は14万円台、国民年金は5万円台のようです。
個人差があることや、ここからさらに天引きされるお金があることには注意が必要でしょう。
もし老後の備えができておらず、かつ公的年金の見込額が少ないという場合は、これから準備を始めて行く必要があります。老後対策について最後に確認しましょう。老後の備え「効率的に」行うにはどうすれば物価高で実質賃金が減少する現代においては、今のやりくりにも苦労するものです。この中で老後資金を数千万円準備しましょうと言われても、目標まで程遠く感じるかもしれません。
しかし、老後生活を守るためには準備が必要です。年金だけで賄うことが難しい人はなおさらでしょう。
もちろん、膝を打つほどの画期的な方法があるわけではありません。一攫千金を狙うのではなく、着実に、時間をかけて、じっくり行うのが鉄則にはなります。しかし、「わかってはいるけど実践していない」というものもあるのではないでしょうか?
いくつかピックアップして見ていきましょう。
●老後対策1. 公的年金の見込額を知る
記事では2024年度の年金額例と平均受給額を紹介しましたが、それがすべての人にあてはまるわけではありません。
まずは自分自身の年金見込額を知っておきましょう。
予想より少ないともちろんリスクがありますし、「実は思っていたよりもらえそう」となった場合、過度な節約が不要になるケースもあるのです。
ねんきん定期便やねんきんネットの存在を知りつつ、まだ活用したことがないという方は、今確認してみましょう。年金の受給開始年齢が近い人ほど、正確な金額となっています。
反対に、まだ若い方は今後の働き方や年収に応じてどんどん変化していくので、定期的に確認することが大切です。
●老後対策2. 公的年金を増やす
年金が少ないとわかったとき、まずは年金を増やすことを検討しましょう。
また、どちらも受給開始年齢を66歳以降にずらすことにより、年金額を増額できます。これを年金の繰下げ受給といいます。
1ヶ月繰り下げるごとに0.7%ずつ増えていくので、働ける方などは選択肢に入れておきましょう。ただし、その分の税負担が増えたり、加給年金に影響したりと、注意点もあります。
●老後対策3. 貯蓄を増やす
避けて通れないのが、貯蓄です。60歳代・二人以上世帯の「貯蓄2000万円以上の割合」や平均・中央値を確認してきましたが、貯めている世帯、貯めていない世帯の二極化傾向も見られました。
確実に貯蓄を貯めていくには、毎月の給料や収入から一定額を先に貯蓄し、残りのお金で生活していく「先取り貯金」が効果的です。
とはいえ、貯金だけでは大きく増やすことができないので、必要な積立額も大きくなってしまいます。物価高でなかなか捻出できないという場合は、預貯金だけでなく積立投資を行うのも選択肢の一つとなります。
2024年は新NISAスタートの年。運用益が非課税になるというメリットもあるので、こうした制度を利用して資産形成を行うのもいいでしょう。
他にも、働き続けるための健康維持やスキルアップ、資格取得も老後対策の一つです。生活費のダウンサイジングが必要になることもあります。
これを機に、家庭に合った貯蓄方法について考えてみてはいかがでしょうか。
● 【ご参考】60歳代の二人以上世帯の貯蓄額一覧表(金融資産を保有していない世帯を含む)
・金融資産非保有:21.0%
・100万円未満:5.9%
・100~200万円未満:4.5%
・200~300万円未満:4.3%
・300~400万円未満:3.0%
・400~500万円未満:1.9%
・500~700万円未満:7.2%
・700~1000万円未満:6.7%
・1000~1500万円未満:6.8%
・1500~2000万円未満:5.4%
・2000~3000万円未満:9.5%
・3000万円以上:20.5%
参考資料
・日本年金機構「年金の繰下げ受給」
・厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年3月分結果速報」
太田 彩子